「ザ・プライス」
埼玉県のせんげん台にオープンした格安スーパー「ザ・プライス」。開店時には1000人が並んだという。

 11月20日、埼玉県のせんげん台に、格安のスーパー「ザ・プライス」がオープンした。開店前から客が殺到、77円の卵1パック、19円のタマネギ、ニンジンが飛ぶように売れていく。かご一杯に買い込んでいた主婦は「底値で買うというのが私の信条」と笑った。

政府も認めた「デフレ」。
生き残りをかけた熾烈な安売り競争

 いま、大手小売りから中小まで、安売り競争が激化、物の値段が下がり続けている。11月27日に発表された消費者物価指数は、前の年の同じ月より2.2%下落、これで8ヵ月連続の下落となった。政府も、物価が継続的に下がりつづける「デフレ」状態にあることを認めた。

 デフレになると、企業は安売りを可能にするために、雇用や賃金を抑制する。労働者は購買力を失い、さらなる安売りを求める・・・。こうした負の連鎖が止まらなくなると、経済全体が収縮していく「デフレスパイラル」に陥ってしまう。現在でも、失業率は5.1%と高く、この冬のボーナスも大幅に減少する見通しだ。

「トライアル」
人件費を徹底的に削り、低価格を実現するディスカウントストアの「トライアル」。翌日には、この商品は15円にまで値下げされた。

 こうした経済情勢を反映し「低所得者向け」を公言する小売りも現れた。ディスカウントストアの「トライアル」。亀田晃一専務取締役は「所得が低い方に豊かな商品を供給するのが、私たちの使命」と語る。

 トライアルは、「安さ」のために人件費を徹底的に削っている。商品の陳列棚の上に、うずたかく積まれた在庫、切れたままの天井の蛍光灯。見栄えのために人を雇うより、安さを優先しているからだ。経理や総務といった業務の一部も、中国にアウトソーシング。かかる経費は10分の1程度だという。全ては、熾烈な安売り競争に勝ち抜くため。牧草光彦支店長は「血を流さないだけで、殺し合いと一緒」と真顔で語った。

格安PB商品の生産交渉
グラム単位、銭単位の攻防

 安売り競争の象徴的な存在が、小売りが企画、開発する「プライベートブランド」(PB)商品だ。イオン、セブン&アイといった大手小売りから中小のスーパー、ディスカウントストアに至るまで、こぞってPBに力を入れている。その市場規模は食料品だけで2兆円超。各社はどのようにして、格安のPBを生み出しているのか。その最前線を追跡した。

交渉現場
大手ディスカウントストアとメーカー、交渉の現場。格安PB商品をめぐり、グラム単位、銭単位の交渉が行なわれている。

 先月PBを始めたばかりという、大手ディスカウントストア。取材に入った時は、ドリップコーヒーのPBを開発している真っ最中だった。カップの上に、コーヒー豆の入ったフィルターを置き、お湯を注ぐだけで、本格的な味わいが楽しめる商品だ。市場の最低価格は、ひとパックおよそ18円。担当者は、それを下回る価格で勝負するつもりだという。

 担当者はまず、工場の稼働率をあげたいと考えているメーカーを徹底的にリサーチする。メーカーにとって、1年中生産ラインを動かし、安定した売り上げを確保するのは至上命題だからだ。浮上したのが、広島県にある従業員80人のメーカー。新しい設備を導入する予定で、仕事を求めていた。担当者が希望する額で、製造を請け負っても良いという。