インフレ率下げ止まりを背景に上昇してきた米国の長期金利。4月の雇用統計の発表を機に物価の沈静化期待で低下し、水準を切り下げた。今後も沈静化が続くかどうかのカギを握る2つのポイントにつき解説する。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
4月米雇用統計で失業率は上昇し
時間当たり賃金の伸びが鈍化
2024年第1四半期の「収まらないインフレ」を背景にリバウンドを続けてきた米国10年債利回りだったが、節目の4.75%手前でピークアウトした格好となっており、足元は4.50%を下回る場面も増えてきている。
大きな材料となったのが4月米雇用統計であり、当該統計においてはNFP(非農業部門雇用者数)が「久しぶりに」市場予想を下回ったことに注目が集まった。
ただ、債券市場参加者が強い関心を寄せたのは失業率(3.8%から3.9%に上昇)と時間当たり賃金(前年比3.9%に伸び鈍化)であり、いずれもストーリー性を持った形でインフレ沈静化を期待させるものとなっている。
23年以降の「強い雇用統計」については、24年4月にCBO(米議会予算局)が23年の純移民流入数を大幅に上方修正(推計値、330万人)したことで、市場参加者を後付け的に納得させた。
コロナ禍で国をまたぐ人流も制限され、これが「移民の国」である米国の労働者不足を介して供給制約由来のインフレを加速させたのが22年であったのだが、23年には人手不足が喧伝されながらも、毎月のようにNFPが増加しており、雇用者数の増加が米国経済(消費)を支える構図が強く意識された。
結局、移民が過小に見積もられていたにすぎず、CBOが公表した「移民増」によって全ての謎が解けた形なのだが、移民の急増は労働者不足の解消という観点からは、FRB(米連邦準備制度理事会)を悩ませ続けてきたインフレの沈静化に寄与し得る。
今後も労働需給の緩和によるインフレの沈静化は進展するのか。次ページ以降、検証していく。