前回は、もともとの前提や文脈を離れたところで数字が一人歩きしてしまうという落とし穴を紹介した。
今回は、もともとの前提から外れてしまうという点では前回と似ているが、その原因が「錯覚」や「ヒューリスティクス(複雑な意思決定を行う際に、暗黙のうちに用いている簡便な思考法)によるエラー」の色合いが濃い落とし穴を紹介する。
なお、今回の記事は、『Diamondハーバード・ビジネス・レビュー別冊12月号 プロフェッショナル養成講座』に寄稿したものをベースにしている。
【失敗例】人事部長 小野氏のケース
「社長はたぶん・・・」
中田恭子氏は、中田フードトレーディング社の社長である。同社は国内で有機野菜や魚介類の流通および外食産業向けにコンサルティングを手がけている新進企業だ。スタッフは現在100人前後で、全員が中途採用の社員もしくは派遣スタッフであった。中田氏は、会社も大きくなったこともあって、来年からは大卒採用を開始しようと考えた。
中田氏はさっそく、人事部長である小野真樹夫氏を呼び、その計画について簡単に説明した。
小野 「では、初年度の人数はまずは2、3人程度ということですね」
中田 「ええ、当社もいまのところ知名度や採用ノウハウがないし、採った後に指導できる若手も少ないから、最初のうちは小さく始めるのがいいでしょう。かといって、1人では寂しいでしょうから、最低2人は採りたいわね」
小野 「募集はどのようにしましょうか」
中田 「まずはHPに募集を出しましょう。それ以外は、スタッフのつてを頼って、いくつかの大学に募集案内を出すのがいいでしょうね。あと、中小企業合同の会社説明会などにもいくつか参加しましょう。なるべく私自身が出向いて話をするようにするわ」
小野 「採用条件はどうしますか」
中田 「金銭面の条件を上げすぎるのはやめておきましょう。それでは大手に勝てないわ。福利厚生まで考えれば、なおさらだわ。むしろ、小さい会社だからこそ、若いうちからチャレンジができる面を打ち出しましょう」
小野 「それは賛成ですね。あと、人材要件についてはどうしますか」
中田 「やる気のある人間で、食へのこだわりがある人間であれば、『来る者、拒まず』よ。男女、大学名は関係なくいきましょう」
小野 「了解しました。その線でもう少し具体的なアクション・プランを考えてみます」
中田氏は打ち合わせが終わると、客先に向かうべく、会議室のドアに手をかけた。そして、思い出したように小野氏に言った。
中田 「できれば、英語ができる人間がいいわね。絶対ではないけど、できればそういう人材を優先して採りたいわ」
小野 「英語ですか」
中田 「そう。よろしく頼むわね」