
2021年に米IBMのITシステム運用部門が分社化されて誕生したキンドリル。IBM出身ながらも、特定のITベンダーの製品やサービスにとらわれない中立的な運用サービスを世界で展開して急成長を遂げている。長期連載『コンサル大解剖』の本稿では、同社コンサル部門、キンドリルコンサルトのトップであるイスマイル・アムラ シニアバイスプレジデントに、専業コンサルファームが持ち得ない同社の強みと、今後日本企業を含む各社が直面するレガシーシステム刷新問題について語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
キンドリルのコンサル事業は年25%で成長
IBMの競合とも組み、差別化サービスを提供
――キンドリルのコンサル部隊と戦略系・会計系などの専業コンサルティングファームとの違いとは?また、IBMもコンサル部隊を有していますが、キンドリルのコンサルは何が違うのでしょうか。
われわれはグローバルのトップ100に入る「Fortune 100」の企業の75%の企業を顧客に持ち、止まることが許されないミッションクリティカルシステムに対して、コンサルティングサービスを提供しています。最新の技術を、ビジネスで使用する本番システムに実装しています。
競合企業と比べて特徴的なのは、われわれは「まずITインフラありき」の企業であること。IBMからスピンアウトした後、われわれは誰とでも手を組める会社になりました。IBMのライバルであった米AWS(アマゾンウェブサービス)や米マイクロソフトなどの世界的なビッグテック企業とも、日本市場などの特定市場のニッチな企業でも、特定の産業や顧客の成果につながるのであれば誰とでもパートナーになります。これは、AIやビッグデータなどの新興テクノロジーを本番環境で使うときに必須となる考え方です。
IBMは戦略アドバイザリーコンサルや、ITシステムの設計やテストを行っていますが、稼働後の本番運用は実施していません。キンドリルはコンサルティング業務で、運用に付随するものも含めた全てのところを担います。顧客のITインフラに関する助言や、クラウド移行、アプリケーション刷新、さらにはビジネス戦略やAI戦略に関する助言、またシステム構築とアプリケーション開発も手がけ、これらのシステムインテグレーションや導入業務に特化した子会社も抱えています。
当社がIBMから分離した3年前は、総売上高に占めるコンサル事業の売上高は10%でした。現在はこの比率は20%まで上がりました。コンサル事業は競合のコンサルファームよりも高い前年比25%の成長率を維持しており、今後も2桁成長が続くことが期待されます。
アプリケーションやインフラの運用に関しては、「Kyndryl Bridge」と呼ばれるAIプラットフォームを活用しています。これはシステムの稼働状況を自動でモニタリングできるツールで、ITインフラのパフォーマンスに関する約300万件ものデータをAIで収集・解析することで、ライセンスの終了時期や利用終了のタイミング、容量の限界といった状況を予測できるものです。
システムの不具合を自動修正できるだけでなく、容量やトラフィックの問題でシステムが重くなる可能性がある場合に、結果的に決済システムやエンドユーザーにどのような影響が出るかなどを、仮説ではなくデータに基づいて予測し、顧客に対して事前に提案できるのです。このツールによって、顧客は過去3年間で累計20億ドルの運用コストを削減できました。
2021年にIBMのITシステム運用部門が分離されて設立したキンドリル。当時はIBMのリストラ対象となった企業と見なされていたが、今は自社のハードやソフト、クラウドサービスなどに囚われない完全に中立的なIT企業として、独自の立ち位置と高成長を維持している。そのコンサル部隊を率いるアムラ氏は、現在日本でも多くの企業の経営問題になっている、レガシー基幹システムの更新に「ゲームチェンジ」が起きていると断言。AIを使った驚くべき解決策があると言う。その解決策とは。また、ライバルの専業コンサルとの差別化ポイントについても詳しく解説した。