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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

消費税引き上げのしわ寄せは末端に?
中小下請けの悲哀と「益出し」に奔走する日本企業の未来

高田直芳 [公認会計士]
【第36回】 2010年6月25日
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 もうすぐ参議院選挙が行なわれるので、メディアやインターネット上での政策論議が、かまびすしい。議員や役人を養うための俸給は税金から支払われているのだから、納税義務を果たしている国民なら誰もが国を批判できる資格を持っている。批判できるとはいっても「いうはやすし」である。政治や行政は特に「叩きやすい」ので、それが顕著になる。

 メディアやネットなどを通して相手を論駁(ろんばく)する様を見ていると、アメリカの経済学や経営学の教科書から得た知識の多寡を競い合う「コピーバンド合戦か」と錯覚してしまうことがある。相手を否定してばかりいないで、オリジナルの理論体系などを自ら創造する努力を少しはしてみてはどうか、と思うのだが。

 感情論さえ飛び交う舞台裏はともかくとして、表でよく議論されている争点は、10年5月にIMF(国際通貨基金)からも勧告を受けた「消費税の扱い」であろう。消費税率を引き上げるかどうかを、マクロ経済の視点で論ずるのは「いうはやすし」だ。一方で、ミクロ経済に落とし込むと、筆者は途端に憂鬱になる。

 そこで今回は、まず地方の中小企業が直面している悲哀に、筆者オリジナルの理論体系(SCP分析)や経営指標(戦略利益)を加味しながら、消費税増税がいかに憂鬱の種となるのか、その理由を説明していこう。以下は、企業も金額も、多少の脚色を行なっている点に注意していただきたい。

中小下請けメーカーを苦しめる
「3たたき」の商慣習

 大手メーカーの甲社と長く取引している中小下請けメーカーの乙社は、甲社の新製品に合わせて取引総額100万円での部品製造を請け負った。甲社からのコスト削減要求は厳しく、100万円の受注価格は乙社として採算ギリギリである。

 乙社が消費税込みで105万円の見積書を提出しようとしたところ、甲社からは「消費税分は当然のサービス(値引き)だ」とダメ出しされた。泣く泣く消費税込みで100万円の見積書を提出したところ、甲社からは「バカな見積書を出しては困る。100万円から消費税5%を差し引いた95万円が、当社からの発注価格だ」と言い渡された。

 これで驚いてはいけない。実際に甲社から乙社へ振り込まれた金額は、95万円よりも数百円少なかった。甲社に問い合わせたところ「銀行の振り込み手数料だ」と返答された。振り込み手数料を下請け側が負担するのは「商慣習」なのだそうである。

 このような価格交渉を「3たたき」と呼ぶことがある。乙社から納入された部品について、甲社のほうから難癖を付けたり、検収遅れを言い訳にしたりして支払いを遅延させる行為を含めると「4たたき」や「5たたき」になる場合もある。中小の下請けメーカーは常に、叩かれ続けるのだ。

 消費税率が例えば10%に引き上げられた場合、10%相当のサービス(値引き)を強要される中小企業は、死活問題になるであろう。役所に訴え出ればいい、などというのは、実務を知らない人々の評論だ。

 上記の話は、甲社が期日に支払いを行なってくれたので、「まだマシなほう」なのである。現実はもっと厳しい。

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高田直芳 [公認会計士]

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月〜13年10月まで公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行なう。

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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

大不況により、減収減益や倒産に直面する企業が急増しています。この連載では、あらゆる業界の上場企業を例にとり、どこにもないファイナンス分析の手法を用いて、苦境を克服するための経営戦略を徹底解説します。

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