参院選が目の前に迫り、「消費税を10%へ引き上げる」と宣言した菅直人政権の支持率が低下している。増税自体への嫌悪、使途が曖昧であるが故の不信――いったい何のための増税か。増税によって不況を克服する「第三の道」とはいかなる政策か。菅首相のブレーンを務める小野善康・大阪大学教授に聞いた。
―菅首相が力説する「第三の道」とは何か。
以下の図を見てほしい。「第三の道」を説明する前に、「第一の道」と「第二の道」がどのような経済政策だったか、なぜ失敗したのか、を説明したい。
第一の道は、自民党が得意とした公共事業などを通じたばら撒き政策だ。その要点は、おカネを配ることにある。“真水○兆円”という言い方に象徴されるように、重要なのは使途ではなく金額だった。その背景には、経済低迷の原因は需要不足にあり、それは国民の所得が横這いか低下しているからであり、それならばおカネを補填してあげることが何より有効だ、という考え方がある。だから、公共事業でも地域振興券でもおカネを配れるのなら、名目は何でもよかった。
この「第一の道」の経済効果が非常に小さかったのは歴史が証明している。ただし、それはよく批判されるように、公共事業などを通じたおカネの配り方が非効率であり、無駄遣いに終わってしまった、という問題なのではない。おカネを配る、その発想自体が間違っているのだ。
―おカネを配られても、人々は消費に回さず、したがって経済効果がない、ということか。
違う。「第一の道」は、一見おカネを配っているように見えて、マクロ経済的には何の政策も行っていないことと同じだからだ。何の意味もないことをしているのだから、経済効果があるはずがない。
―公共事業などを通じた所得の再分配が、なぜ、何もしていないことと同じになってしまうのか。
その構造を説明する前に、「第二の道」をおさらいしておこう。「第二の道」は、小泉構造改革路線だ。規制緩和を通じて競争を促進し、生産性を向上させ、経済の体質を強化する。つまり、民間企業の効率性を重視し、政府の役割を縮小し、財政はカットする。競争によって生じる失業者には、セーフティネットを用意する――。実は、正反対に見える「第一の道」と「第二の道」は、私に言わせれば同じことだ。
―財政を拡大し、公共事業を通じておカネを分配する大きな政府路線と、財政を縮小し、公共事業をカットし、失業者にはセーフティネットを用意する小さな政府路線と、何が同じなのか。
例えば、私が政府で、あなたが失業者だとしよう。私があなたを雇って、ある土地の穴を掘って、それを埋める公共事業を行うとする。その労働の対価として、私はあなたに100万円を払う。あなたはそのおカネで食事をし、衣服を買う。つまり、消費する。
だが、あなたが利口ならば、何の作業もせず家で寝ていて、穴を掘って埋めたからと嘘をいい、100万円請求するかもしれない。嘘をついたという道義上の問題はあるが、その土地に何も変わりがなく――穴を掘って埋めるのだから――、100万円を渡すことも変わりない。つまり、経済的には同じ行為だ。100万円を入れた袋に給料と書くか、失業手当と書くか、その違いだけだ。