各国の政治が先鋭化している。専制主義国家の横暴ばかりではない。西側自由主義国でも、極端な政治信条を掲げる政党の躍進が目立つ。それが国内で、政治対立の構図を生み出すこともあれば、妙にまとまることもある。我々は今、どのような政治空間を進んでいるのか。それは市場にどのような影響を及ぼすのか。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)
米国優位を確たるものとする意図が
見えるトランプ氏の政策
米国で第2次トランプ政権が発足する。米国第一主義を掲げ、中国など専制主義国のみならず、味方のはずの西側同盟国や近隣諸国にも厳しい要求を突きつける。対外的には、関税の大幅引き上げを公約しており、中国の対米輸出品には60%、その他の国にも10~20%を課すという。
国内向けには、減税と規制緩和によって、経済活性化を図るという。自らの第1次政権時の時限減税の恒久化と、新たな減税措置を提案する。また、金融・AI・暗号資産などへの規制緩和を表明している。他方、薬品・ヘルスケアなど民主党政権が進めてきた分野への補助金など支援措置は、停止か縮小の意向だ。
エネルギーについては、石油など化石燃料を規制緩和して増産し、価格低下を促し、インフレを抑制するとする。地球温暖化阻止など国際協調が求められる環境問題は「陰謀論」として、将来に禍根を残すかもしれないリスクなど歯牙にもかけない。
これらの諸施策は、内外さまざまなシーンで、トランプ政権がディール(取引、駆け引き)に使うカードとなる。関税は、相手国に米国製品(農産品、天然ガスなど化石燃料、軍事兵器など)を買わせること、米国に製造業を回帰させることに役立てる。
もちろん、中国への高関税は、同国経済を弱体化させ、同国と米国をデカップリングさせる手段である。国内の原油増産は、中東産油国、あるいはロシアを揺さぶる交渉カードにもなる。
一見して突飛で脈絡なく思われがちなトランプ氏の公約も、ディールの手段として評価すれば、世界の力学構図が激変する時代に、米国優位を確たるものとしようという企図が尽くされているとも見えてくる。そして、脈絡なく見える態度自体が、交渉相手に恐怖を与える時点で、優位に立てるともいえる。
歴史的に成熟した民主主義のお手本ともいえる存在だった欧州でも、自由・平等・融和を唱える伝統的な大政党が後退し、移民排斥や環境原理主義など先鋭的な政党が台頭している。
もっとも、かつて極右とされた政党が躍進する際には、先鋭的すぎる主張を緩めるなど、融和的な態度を示すことが認められる。それによって、論点が緩い大政党へ不満を募らせる有権者の支持を取り込んでいる。
先鋭的な政策志向と、それを実現させる際の現実路線のバランスは、米国の第2次トランプ政権にも推察される。関税をディールの手段とするなら、いきなり公約の高税率をかけるわけではなく、相手国との交渉で譲歩を引き出しつつ、段階的アプローチを取ろう。
そもそもトランプ政権が、追加関税に、国内減税を公約通り強行すれば、インフレ、財政赤字拡大で長期金利上昇など、米国民へのマイナス作用も強く表れると危惧される。
確かに市場には、トランプ氏が、第1次政権時の経験値がある分、第2次体制では早々に公約実現に走るのではないかという警戒はあった。しかし、新財務長官に、経済と市場に精通するヘッジファンド運営者スコット・ベッセント氏が指名され、市場には現実的アプローチへの期待が高まった。
これから数カ月、市場はトランプ氏、ベッセント氏の一言一句に注目し、政策経路の予想を調整していくことになろう。トランプ氏を含め、先鋭的な個性派ぞろいの政権内で、良識的な現実路線派がはじき出されなければ、と願いつつではあるが。
次ページでは、トランプ氏が復権するに至った政治的背景を検証しつつ、トランプ氏の政策が市場に与える影響を分析するとともに日本の政治の現状についても触れる。