なぜ米国では「しくじり経営者」の報酬が高いのか?東芝が買収した原発子会社まで…写真はイメージです Photo:PIXTA

利益を生み出した経営者には、それなりの報酬が支払われるべきだが、アメリカでは経営不振を招いた人物にも多額の報酬が支払われる例が後を絶たない。アメリカのゆがんだ株主資本主義について、朝日新聞経済部デスクの江渕崇氏が語る。※本稿は、江渕崇『ボーイング 強欲の代償 連続墜落事故の闇を追う』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

東芝の原発子会社
会長に22億円の高額報酬

 私がアメリカに駐在していた4年間だけでも、似たような話(編集部注/経営上の不始末を起こしてもアメリカの企業トップに多額の報酬が支払われる例)は絶えることがなかった。

 東芝が買収した原発子会社のウェスチングハウスは、2017年に連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請して経営破綻した。その直前、経営責任を問うためとして、会長だったダニー・ロデリックを解任した。しかし、最後の1年間に彼に1935万ドル(約22億円)を支払っていたことが、裁判資料で明らかになった。この金額に、ボーナスや退職金が含まれていたかどうかは不明だ。

 拡大路線をひた走ったずさんな経営の揚げ句、巨額の損失を出して自社を破綻に追いやり、株主・東芝の存続をも揺るがす事態を招いた当の最高幹部である。彼は、破綻の原因となった原発建設をめぐる損失を小さく見せようと「不適切な圧力」を部下にかけた疑いまでかけられていた。その結果、東芝は2度にわたって決算発表の延期を余儀なくされ、上場企業としての信頼を損なう失態を演じていた。

 東芝危機を招いた「主犯格」に近い人物が、まさにその危機のさなか、自らはしっかり高額の報酬を受け取っていたということになる。ロデリックの報酬についてごく短い記事を書きながら、私は、ウェスチングハウスのしくじりで1兆円超の損失を背負い込んだ東芝の、とりわけ現場の社員たちが置かれていた先の見えない苦境を思った。

 経営者報酬のあり方は、それぞれの企業の本質と価値観を色濃く映し出す。

 安全や次世代への投資を軽んじても、会計操作に手を染めたとしても、在任中の株価さえ上がれば報われる。そのツケが何年も後になって重大な事故や競争力の低下という形で株主や従業員、顧客、そして社会に損害をもたらしたとしても、とっくの昔にリタイアした経営者にはもう関係がない。

 たとえばそのような報酬体系のもとで、もはや倫理による自律を期待できなくなった経営者がどう行動するのかは、ボーイングの例(編集部注/安全性より利益追求に走ったボーイングは連続墜落事故を起こした)を見るまでもなく明らかだ。