「“財務省の手先”はレッテル貼り」石破茂が語る、タブーを恐れない財政論Photo:Pool/gettyimages

日本経済を長らく悩ませていたデフレスパイラルからの脱却を目指し、安倍晋三元首相が打ち出した「アベノミクス」。それを継承した菅政権、出口戦略を模索した岸田政権を経て首相に就任した石破茂は、日本経済をどこに導くのか。次代の成長戦略、社会保障、国のかたちを語る。※本稿は、石破茂著、倉重篤郎編集『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

デフレ脱却に効きそうな手法を
総動員したアベノミクス

 経済財政政策においては、この10年間続いてきたいわゆる「アベノミクス」とは一体何だったのか、その功罪についてきちんと評価すべき時期が来たのではないでしょうか。

 当初の「アベノミクス」は3本の矢からなる、と言われました。最も強力な1本目の矢が異次元の金融緩和でした。市場に出回るお金の総量を増やし、2年間で2%のインフレにする、という目標を立てました。これに続く2本目が機動的な財政政策で、3本目が規制緩和などによる成長戦略でした。

 これはつまり、デフレをどう脱却するか、について、マクロ経済学の中で言われているメジャーなものをすべて試そうとした、ということだと私は思っています。

 金融政策によって解決しようというマネタリスト(編集部注/マネーサプライ=貨幣供給量が、景気や物価を決定するという経済理論を信奉する人々)、政府の財政出動によって解決しようというケインジアン(編集部注/イギリスの経済学者ケインズが提唱した、公共事業や金利操作で景気を調節する経済政策を主張する人々)、規制緩和など成長政策によって解決しようという新自由主義(編集部注/政府の経済活動への介入を極力減らし、市場原理に基づいた自由な競争を促すことで経済成長を目指す考え方)、これらすべてを試そうとしたのが、当初のアベノミクスだったのではないでしょうか。

短期決戦が前提の金融緩和を
10年続けて「国の借金」は大膨張

 そして、1本目の「異次元」という冠のついた金融緩和は、文字通りこれまでにないものでした。市場にお金をふんだんに供給する手法として、日銀が市場に出た国債を右から左にほぼ無制限に買い取る、というもので、学者の中には、これは財政法が禁じる日銀の直接引き受け(中央銀行が市場を通さず政府の発行した国債をそのまま買い取り、財源を無限に生み出す政策。戦前、高橋是清蔵相時代に軍部の圧力により実施)に近い、との批判もありました。

 異次元の金融緩和には一定の効果がありました。円高・株安基調だった日本経済が反転して円安・株高にシフトし、輸出製造業を中心に収益が増大し、失業率は低下、新卒学生の就職状況も随分と改善されました。民主党政権下、経済界が円高、原油高、株安など六重苦を訴えていた時と比べて、やはり経済政策は自民党に限る、という評価が戻ってきたのも事実でした。安倍晋三さんが「悪夢の民主党政権」と言ったことが一定の説得力を持ったのも、そういう背景があったのでしょう。