トランプ大統領トランプ大統領が「関税」を発動させて実現したいこととは Photo:JIJI

トランプ関税は、本当に悪いことばかりなのか――。突然始まった世界経済における秩序の崩壊によって、金融市場を中心に混乱が広がっているのは間違いありません。しかし、トランプ大統領には各国と痛み分けをしてでも実現したい「利益」があるのです。「トランプ関税で最も大きな被害を受ける人たち」が誰なのかわかると、「本当の狙い」まで自ずと見えてきます。さらに、「トランプ関税」という強力な外圧は、停滞する日本経済を活性化させる起爆剤になりえる、と言えば驚かれるでしょうか。悲観論ばかりが蔓延するトランプ関税の「ポジティブな側面」にも光を当てます。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)

数字で考える「トランプ関税」
大騒ぎするほど大変なの?

 トランプ関税が90日間の猶予の後に発動されると「世界経済の前提がまったく変わってしまう」と言うのですが、せっかくですから具体的にどう変わるのかを考えてみましょう。

 この先、ディールで条件が変わる可能性もあるのですが、今のところという前提でお話しします。日本が輸出する自動車にはこれまでの関税に加えて25%が上乗せされます。

 そうなると輸入するアメリカから見れば日本車の原価は単純計算で1.25倍になります。日本で300万円の車はアメリカでは約375万円になるという計算です。トヨタはこのコスト差を企業努力で吸収してアメリカでの販売価格を維持する方針です。

「そんなことが本当にできるのか?」

 ここがひとつのポイントで、当面の間はできると思います。この問題をシンプルに考えると、コストが1.25倍になることは、たとえば為替レートがこれまでのように1ドル=150円近辺だったのが急に1ドル=120円となったのと同じだと考えることができます(計算式は150円÷1.25=120円)。

 考えてみればアベノミクス初期の為替レートは1ドル=100円付近だったわけですから、当時企業努力で耐えられたものは今でも耐えられるだろうというのが王者トヨタの受け止めでしょう。