「確実にいえるのは、取引1回当たりの売買代金が減ること。顧客の証拠金をどの程度維持できるかが問題だ」(兵藤一摩・クリック証券経営企画部長)

 8月1日から、FX(外国為替証拠金取引)にいよいよ“レバレッジ規制”が導入される。近年FX業界では、実質的な手数料であるスプレッドと、レバレッジをめぐる競争が激化。レバレッジ400倍での取引が可能という業者すら現れていた。それが50倍までに規制されるのだ。レバレッジ400倍なら400万円の取引が1万円の証拠金でできるが、50倍では8万円が必要となる。

「顧客がどういう行動を取るのか読み切れない」(博多一恭・エフエックス・オンライン・ジャパン代表取締役)と、各社とも自社への影響の度合いについては測りかねているが、業界全体で取引高が2~3割程度減るとの予測でおおむね一致する。特に、低スプレッド・高レバレッジをうたって短期取引の投資家を中心に人気を集めてきた業者には打撃必至だ。

 すでに撤退する業者も出てきた。取引高で5本の指に入る業界大手の一角、EMCOM証券は、7月20日付でトレイダーズ証券への事業譲渡に踏み切った。同社の場合、親会社のEMCOMホールディングスが抱える債務の返済問題があり、その原資捻出のためという事情が大きいが、8月以降の環境悪化を見越していずれFX事業を“見切る”のではないかとの観測は、業界内では早くからあった。

 ほかには、サクセットFXの廃業、アリーナ・エフエックスの一部事業譲渡が発表されている。「M&Aの話はちらほらあるが、条件がまったく折り合わない」(兵藤部長)、「現在の状況下では、買う側もリスクを負いたくない。8月の各社の業績を見たうえで、動きが出るのではないか」(村田雅志・FXCMジャパン・チーフエコノミスト)。つまりは「業界再編の本番は8月以降」(松本一榮・セントラル短資FX社長)だ。

 なお、レバレッジ50倍規制は経過措置であり、来年8月には25倍までに規制される。そこが“本当の本番”だが、50倍でも「高レバレッジ・高回転取引の顧客中心のところでは、取引高40~50%減となる可能性」(業者幹部)がある。取引高半減となれば、ビジネスモデルが崩壊しかねない。事業譲渡もできず、廃業あるいは倒産といったケースもありうる。

 一方で足元の業績の落ち込みは、高レバレッジ業者の成長で割を食った“穏当な”モデルの業者のほうが顕著だ。高レバレッジ業者が生き延びた場合、彼らがさらに苦しくなる可能性もある。各社とも当面、顧客囲い込みのため低スプレッドや広告宣伝の手は緩められない。業界は我慢比べの様相を呈している。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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