NTTとソフトバンクは、水と油の関係にある。保守本流の元国策会社であるNTTは、自ら畑を耕すことで、せっせと水を与えて作物を育てることを是とする価値観の持ち主である。
それに対しソフトバンクは、自ら畑を耕すことには消極的である。畑は、必要なときに必要な地主から借りればよいと考えている。その価値観は、まさに180度違う。
既存の秩序を破壊しようとする新規参入者との戦いに、NTT持株会社の三浦惺社長は、どのような思いで臨んでいるのか。その口から、直接ソフトバンクを非難する言葉は出てこないが、通信事業者として自らが守り続ける“矜持”を語ることによって、暗に伝統の破壊者の振る舞いに釘を刺す。さて、これらのメッセージを、孫正義社長はどう受け止めるだろうか。
(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
NTT持株会社(日本電信電話)社長
1944年、広島県生まれ。東京大学法学部を卒業後、旧電電公社(現NTT)に入社。経理、人事、労務などの要職を経て、2002年にNTT東日本の社長に就任。05年にNTT持株会社の副社長兼中期経営戦略推進室長に転じ、07年に社長に。Photo by Shingo Miyaji
─現在、光回線を全国に張り巡らす「光の道」の議論が盛り上がっています。まだ構想の段階とはいえ、NTT東日本やNTT西日本などが持つインフラ部分(光回線のネットワーク)を切り離して、競合事業者が使える公社化を図るべきだとする“極論”も出ています。NTTグループとしては直接的な影響が免れません。
まず、原口一博総務大臣もおっしゃっているように、現在想定されている未来の通信ネットワークには、無線通信や衛星通信も含まれますので、NTTの東西会社が持っている光回線だけを対象にしているのではありません。
そこには、地域にあるケーブルテレビ会社も含まれていますので、僕は“象徴としての光の道”だととらえています。それに、光の道の定義そのものがあいまいなままですから、現在ソフトバンクさんが主張されていることも含めて、まだまだ議論が十分に尽くされているとは言いがたい。
─NTTグループは、ずいぶん前から、大赤字を出しながら光回線の敷設を続けてきましたが、その根底にあった“思い”にはどのようなものがあったのですか?
毎年、巨額の赤字を出しながら続けてきたのは、理由があります。長年、日本の通信インフラを守り続けてきた通信事業者として、固定通信(電話やインターネット)の世界では、必ず光回線の時代が来ると確信していたからです。
ひと頃は、外国人の機関投資家から「クレージーだ」「NTT法や事業規制もあるなかで、なぜそこまでして光回線を引くのか」と呆れられもしました。それでも、コツコツと続けてきたのは、日本の将来のためになると考えていたからです。