政府の洋上風力発電プロジェクトコンペについて、公募に関するルールが再び変更される見通しとなった。新ルールは2025年にも実施されるコンペで適用される見通し。背景には、世界で表面化している「洋上風力クライシス」が、日本でも勃発しかねないことにある。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、洋上風力発電プロジェクトの公募ルールの再変更に至った裏事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
世界では撤退が相次ぐ
洋上風力発電プロジェクト
「誰かがプロジェクトで大失敗するか。公募に誰も入札しないか。そんな事態にならない限り、メティ(METI、経済産業省)は目を覚まさないだろう」
洋上風力発電プロジェクトに詳しいある業界関係者はそう語り、政府が再び実施する見通しとなった洋上風力発電プロジェクトコンペに関するルール変更について、憤りを隠さなかった。
政府が脱炭素の切り札として期待を寄せる洋上風力発電プロジェクトについて、これまでに政府公募のコンペ「第1ラウンド」と「第2ラウンド」が実施された。
第1ラウンドは三菱商事連合が3エリアを総取りし、第2ラウンドの4エリアは、石油元売り最大手のENEOSグループ連合、国内最大の発電事業者のJERA連合、独エネルギー大手のRWE連合、住友商事連合がそれぞれ落札した。青森県沖日本海(南側)と山形県遊佐町沖の2エリアを対象にした第3ラウンドが審査中で、年内にも審査結果が公表される見通しだ。
政府は洋上風力を脱炭素の切り札に掲げるが、日本は洋上風力“後進国”。後れを取る世界にキャッチアップすべく、政府は20年、30年までに10ギガワットの洋上風力発電プロジェクトを組成する目標を掲げた。その目標を達成すべく、エネルギー政策を所管する経済産業省がまい進している。
しかし海外では近年、洋上風力発電プロジェクトは危機的状況を迎えている。
23年にはインフレや金利上昇などの影響で採算が合わなくなったとして、洋上風力世界最大手のデンマークー、オーステッドをはじめ、石油メジャーの英BPらがプロジェクトを相次いで中止した。英国政府が同年に実施した洋上風力発電プロジェクトに関する入札では、各事業者が“ボイコット”。応札したプレーヤーはゼロという事態に陥った。
世界で勃発した「洋上風力クライシス」を受け、政府は今後も日本で確実に洋上風力発電プロジェクトへの投資が行われるよう公募ルールの再変更へとかじを切ったのだった。
実のところ、すでに日本でも洋上風力クライシスのシグナルが出ている。それは、今回の公募ルール再変更に至る過程であらわになったのだ。
次ページでは、政府が実施する洋上風力発電プロジェクトコンペのルールが再変更に至った裏事情を解き明かす。第2ラウンドでプロジェクトを勝ち取ったはずのENEOSグループ、JERA、住友商事らが悲鳴を上げているのである。