今年4月の発売から80日間で世界での販売台数が300万台を突破したiPad。5月末発売の日本でも人気が沸騰し、3ヵ月経った今も品薄状態が続いている。そんななか、企業や教育機関でこの旬のツールを導入しようという動きが目立ち始めた。

 インターネット広告代理店のオプトでは、6月から全社員を対象にiPadの購入補助制度を導入している。購入者には2万円の補助金を支給する。社員が日常生活でiPadを使うことを奨励し、ユーザー視点の発想や企画立案につなげることが目的だ。

「顧客からはiPad関連の要望が非常に多い。主にiPad用アプリケーション(以下アプリ)の開発、ウェブサイトのiPad向けへのコーディング変更、iPad活用型プロモーション企画の立案、iPadアプリへの広告出稿といったもの。制度により社員のリテラシーを高め、提案を活発化させたい」と、オプトの広報部は話す。

 また、デジタルメディアを活用したPRを得意とするビルコムでは、7月1日から全社員にiPadの無償配布を始めた。主に、営業社員が客先でプレゼンテーションするときや、自社のPRノウハウをPDF化してiPadに搭載し、社員がそれを見て自己学習するときなどに活用する。

 資料のペーパーレス化により、年間60万円相当の印刷費用の削減も見込む。「新しい端末はいち早く使って理解し、それを用いたソリューションを企業のマーケッターに提案していくのが当社のポリシー。iPadでもそれを実践していく」(ビルコム広報部)。

 一方、食料品や医薬品を製造販売する大塚製薬では、7月末までの予定でiPadを1300台導入し、全MR(医薬情報提供者)に配布する。導入費用は2億3000万円。主に医者向けに、医薬品の製品情報や関係論文を、ビジュアル化された資料や動画などを通じて対面で提供する「1対1の営業活動」で活用する。

「従来は紙の資料で提供していたが、ビジュアルや動画にすることで、インパクトのある伝え方ができる。iPadは起動が速く大画面なので、多忙な医者を前に瞬時に効果的に見せられるのもポイント」と、大塚製薬広報部は説明する。

 そして、家電量販のべスト電器では、6月から役員の会議にiPadを導入している。出席者は今までの紙資料の代わりに、社内のサーバーの資料データを閲覧する。

「紙資料を用意する手間とコストを省ける。終了後は返却させてデータをすべて消去するので、情報漏えい対策にもなる」と、ベスト電器広報部はメリットを挙げる。現在15台を導入済み。今後は役員以外の会議で活用することも検討していく。

 一方、教育関係では、京都の大谷大学が来年4月にiPadを人文情報学科の新入生と在学生合計480人に無償配布する計画だ。電子化されたテキスト、ゼミの成果物などを搭載して授業で活用したり、出席の自動記録やツイッターを活用した質疑応答、討論に使うことを想定する。

「学生には、授業以外でも日常的に使ってもらう。新しいデバイスに習熟すれば、卒業後にソフトやコンテンツを作成する仕事への道が開ける」と、同学科の池田佳和教授は期待を寄せる。発表後は、他大学や出版社などから問い合わせが相次ぎ、予想以上の反響という。

 こうして見ると現状では、(1)iPadを用いたプロモーションの提案力を磨くために導入、(2)1対1の対面プレゼンテーションに活用、(3)会議で使う、(4)教育機関が授業での使用を計画、などが主な事例のようだ。

 今後は、特に(2)が増える可能性がある。「iPadの特長は、片手で持って大画面で動画を見せられること。アパレル店で商品を着たモデルが歩く様子を見せたり、美容院で顧客の画像を取り込んで髪型をシミュレーションするなど、1対1の接客で活用が進むかもしれない」(オプト広報部)。

 携帯電話サービス大手のソフトバンクが実施したアンケート調査では、ビジネスマンの4割強がiPadを購入する意向を示しているという。この結果を見ても、iPadが活用される場面はますます広がりそうだ。