「あ、あの、実は卒業できなくて…」メガバンク内定者から突然の電話→支店長が放った「まさかのひと言」写真はイメージです Photo:PIXTA

配属先が決まった
内定者からの突然の電話

「えっ!山下君、それ決定なの?ほんとにダメなの?何とかならないの?」

 今から数年前の3月のこと。私が勤務するみなとみらい支店に、4月から配属が決まっている山下君から電話がかかってきた。山下君は京浜地区のとある私大法学部の出身で、ボート部に所属していた。

 例年2月の中旬頃に、人事部から新入行員の配属について連絡が来る。ただし、配属の有無は支店の規模によって変わる。社会人としてのイロハと銀行業務をゼロから教えるには、相当の体力を要する。ある程度大きな規模の支店でないと難しい。

 新年度、みなとみらい支店で受け入れる人員は男性1人と聞いていた。将来のM銀行を背負う、前途有望な若者を迎えるのは光栄なことだ。

 2月下旬、新入行員は人事部から配属先を言い渡され、直ちに配属店の副支店長に電話で挨拶をするよう指示を受ける。その後、給与振り込みのための口座開設や、労務関係の書類作成のため、初めて支店を訪れることになる。来店した山下君は、緊張した面持ちで口座開設申込書を記入していた。

「勤務先の欄はどう書けばいいでしょうか…」

「M銀行と書くように」

 私が言うと、はにかむように笑った笑顔が印象的である。

「社会人になる実感が湧いてきました」

 その言葉を聞いて、彼の人生の門出を心の底から応援したくなった。小さい頃、もらったお年玉を貯めておくために母親が作ってくれた銀行口座を使っているので、自分で口座を開くのは初めてだという。

 山下君が支店長と対面する前に少し時間があったので、入行したら何をやってみたいか聞いてみた。

「後継者に悩む中小企業のM&Aに携わり、皆さんの役に立ちたいと思っています」

 彼が銀行を志望した動機である。いつか実現してほしいと思った。卒業式の後、3日ほど家族で熱海へ旅行に行くそうだ。社会人になると時間ができないから、たくさん思い出を作っておけとアドバイスした。

「かしこまりました」

 素直な返事が耳に残っている。その山下君からの電話である。