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円売り介入は政府のやる気印? 米議会は迷惑顔

加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]
【第16回】 2010年9月22日
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英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は、菅直人氏の首相続投が決まったと思ったら実施された単独円売り介入についてです。民主党代表選で菅首相が勝って、米『ニューヨーク・タイムズ』が「このところ問題続きだったワシントンとの関係も、これで落ち着くだろう」と書いたのも束の間、その翌日に政府・日銀が踏み切った介入に対して、米議会では「ルール違反だ」、「中国の真似か」などと迷惑顔な日本批判が飛び交いました。その一方で、菅首相の「ウイニング・ランのようだ」と呼ぶメディアもあれば、「日本政府はやる気だ」と示したこと自体を評価する声もあり。当の中国からは言外に「そらみたことか」的な論調も。何事もそうですが、万人を満足させることは実に難しいものです。(gooニュース 加藤祐子)

政治的なウイニング・ランか

 英『フィナンシャル・タイムズ(FT)』のリンジー・ウィップ記者は、「日本の円介入は方針転換の予兆」という20日付記事で、介入のおかげで株価は昨年12月来の高値まで付けただけに「投資家たちは一致して支持表明している」し、介入当日には円レートも3.3%下がるという効果を発揮したと書いています。

 菅首相が代表選に勝って24時間もしないうちに行われたこの介入に「element of surprise(驚きの要素、意外性)」があったことが、主な成功の要因だったと記事は結論します。加えて日本政府が動いたことで、(1) 為替市場の投機筋を(当面は)押さえることができたのと、(2) 無為無策だとずっと思われていた日本政府が、「これからは積極的に動くぞ」という印象を与えたことが証券市場の投資家心理にもプラスに働いていると。

 同じFTは介入直後に「とても政治的な介入」という見出しの社説で、代表選直後の介入は「ウイニング・ラン (victory lap) のようなものだったのかもしれない」と論評。「日本政府が政策的な麻痺状態から抜け出したという意味では歓迎するが、その意味合いは経済よりも政治において重要なものだ」と書いていました。為替介入を強く主張していた小沢一郎氏の支持者たちを喜ばせる措置だし、輸出産業における民主党の支持率にも貢献するだろうと。

 そしてこの社説でも、「日銀は今まで以上にデフレ対策に意欲的だとシグナルを発することになれば」、それこそが介入の最大意義だと書いています。

 要するに、今までの日本政府と日銀がいかに国外から、無為無策でどうしようもないと見られていたかの、これは裏返しの評価なのでしょう。「やる気かも」と匂わせるだけで、これほど期待されるのですから。

 その一方でFT社説はこうも指摘します。「中国政府の為替ペグに関する連邦議会の公聴会がちょうど始まったばかりのワシントンでは、日本の措置によって(輸出を有利にするための為替操作に対する)不快感がさらに悪化するだろう」と。

選挙目前の米議会は

 まさにその通りでして、17日付の米『ブルームバーグ』によると、米民主党重鎮で上院銀行住宅都市委員会のクリス・ドッド委員長は、「日本が為替を操作し始めた」ことは「これまであった取り決めに完全に違反するものだ」とブルームバーグに対して発言。また議会公聴会でも「日本の行動がアメリカの経済利益にどう影響するのか判断するのは、もちろん時期尚早だが」、「日本だろうと中国だろうとどこか別の国だろうと、単独の為替介入は、為替レート政策に関する国際協力に穴を開けるものだ」と述べています。米『ニューヨーク・タイムズ』によると、下院歳入委員会のサンダー・レビン委員長(民主党)も「a deeply disturbing(非常に心配な、非常に不穏な)」展開だと言及したそうです。

 こういう意見は民主党に限らず、たとえば中国が人民元レートを切り上げないなら罰則的な関税をかけようという法案を民主党議員と共同提案している共和党のティム・マーフィー下院議員は、FTによると、「中国が(為替に)介入して良いなら『どうして自分たちはダメなんだ?』と日本は思っているに違いない」、「もし各国が自分の都合を優先しているのなら、それは問題だ」と発言しています。

 人民元レートを切り上げない中国は輸出などで不当に有利な立場にあると批判し続けているアメリカでは、議員たちのこういう言い分がもっぱらの大多数意見ではないかと思います。要するに、せっかく中国を追い込もうとしているのに日本が勝手なことをして迷惑だということでしょう。加えて、11月2日に中間選挙を控える米議会では、こういう外国批判がこれからますます高まるだろうとも思います。アメリカの景気がなかなか回復しないのは誰のせいだ?というのが、(今回に限らず)選挙の大きな争点のひとつですから。

「単独行動した日本に批判集中」というFT記事によると、欧州でもユーロ圏財務相で作るユーログループのユンカー議長(ルクセンブルク首相兼財務相)は、日本の為替介入に失望を表明。「国際的な不均衡に単独行動で対応するのは、適切ではない」と述べたそうです。

 その一方でロイター通信によると、伝説的(と言ってもいいと思う)投資家のジョージ・ソロス氏は、「もちろん、為替が強すぎて苦しんでいるのだから、介入するのは正しい」と日本の動きを擁護しています。「もちろん」と訳した「certainly」というその言いぶりに(普段の言動と合わせて)、「当たり前じゃないか」的なニュアンスを感じました。選挙や有権者を気にしなくていい人の発言、とでも言いますか。

そして中国は……

 もっとも20日付の中国「人民日報」(英語版)によると、中国人民銀行(中央銀行)の李稻葵(リ・ダオクイ)金融政策委員は、アメリカからの人民元切り上げ圧力に反発し、為替レートは中国にとって経済構造を調整していくための道具の一つだと発言。「中国は(為替レートをめぐり)日本のように外国の圧力に屈したりしない」と述べたのだそうです。

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※関連リンク
北京と東京で関係修復を フィナンシャル・タイムズ社説(フィナンシャル・タイムズ―gooニュース翻訳)
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加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]

1965年東京生まれ。小学校時代を米ニューヨークで過ごす。英オックスフォード大学修士号取得(国際関係論)。全国紙社会部と経済部、国際機関本部、CNN日本語版サイト編集者(米大統領選担当)を経て、現職。2008年米大統領選をウオッチするコラム執筆。09年4月に「ニュースな英語」コラム開始。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」。

 


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