植田日銀が、かつて利上げで景気低迷させた「速水日銀」の“二の舞”を演じかねない理由Photo:PIXTA

8月初旬の日本株暴落のきっかけは、「植田日銀の利上げが遅れたことにある」――との声が日銀OBなどから上がっている。つまり、慎重な政策運営が裏目に出たというわけだ。だがそもそも、その慎重さは「速水日銀」の利上げ失敗を“反面教師”にしたものである。当時の速水優総裁は任期中に「ゼロ金利」の解除を決断。不運にも、この利上げから間もなく景気は低迷した。今後の情勢次第で植田日銀は、反面教師と似た失敗を繰り返す恐れがありそうだ。(時事通信社解説委員 窪園博俊)

急な“タカ派”転換で株暴落させた植田総裁
「正常化が遅れたせい」との見方も

「植田さん、もっと早く正常化すればよかったのに」――。追加利上げで日経平均株価を暴落させた日本銀行。植田和男総裁を知る日銀OBなどからは、「正常化の遅れが今回の事態を招いた」との見方が出ている。

 日経平均株価の暴落は、幾つかの要因が重なって引き起こされた。日銀は7月31日の金融政策決定会合で、追加利上げを決定した。上げ幅はわずか0.15%で、発表時点では「金融市場はほぼ織り込み済み」(大手邦銀)だったこともあり、同日の日経平均は買い戻しで反発した。

 波乱が起きたのは株式市場が引けた後の植田総裁の記者会見だった。これまでハト派姿勢が目立った植田総裁だが、急にタカ派姿勢を示したのだ。

 この姿勢変化は「かなりのサプライズだった」(同)とされ、会見中から円高が加速。翌8月1日の日経平均は1000円近い下げを演じた。さらに2日に発表された米雇用統計が予想以上に悪化。「米国の景気後退(リセッション)入りへの懸念が広がった」(外資系ファンド)とされ、米ダウ平均株価は600ドル超も急落。そして、週明け5日の日経平均は4400円余りも暴落した。

 日経平均暴落のかなりの部分は、米国要因に基づくものだが、植田総裁の会見が「暴落に至る最初の引き金になった」(同)のは間違いない。問題は、急に姿勢転換するに至った理由だ。ヒントは、大暴落を受けてハト派のメッセージを送った内田眞一副総裁の7日の講演に込められている。

次ページでは、“ハト派”的メッセージを発した内田副総裁の講演をひもときながら、植田総裁が、“タカ派”的姿勢へ転換した要因、そして、かつて「ゼロ金利解除」という利上げで景気低迷の引き金を引いた速水優日銀総裁の“二の舞い”になりかねない理由に迫る。