サムスンG11工場建設再開!?<br />簡単ではない三つの理由世界中で売れまくっているサムスンの薄型テレビ。次世代工場の行方に注目が集まっている Photo by REUTERS

 10月6日、液晶パネル世界首位の韓国サムスン電子が、2008年に発表したあと保留となっている第11世代(G11)の液晶パネル工場の建設計画を再開すると韓国紙が報じ、話題を呼んでいる。

 G11の液晶パネルとは、縦3.0メートル×横3.32メートルのガラス基板を使用し、シャープの大阪・堺工場で使用している第10世代を上回る世界最大規模のパネルだ。また、建設資金は30億ドル(約2441億円)で、サムスンと液晶パネルの合弁会社S-LCDを共同運営するソニーも出資する見込みだとされている。

 もっとも、「本当に工場建設に着手する気か」と多くの関係者はいぶかしむ。それも無理はない。理由は大きく三つある。

 一つ目は、液晶パネルはすでに供給過剰であることだ。北米の売り上げは低迷を続け、頼みの中国は最近まで流通在庫が積み上がっていた。そのため、各パネルメーカーはパネルの減産に踏み切らざるをえなかったほどだ。

 加えて、液晶パネル生産を基幹事業と位置づける中国の存在だ。中国政府が現在認可を与えている国内3メーカーの工場だけでも年間約6000万枚のパネルが生産可能で、12年の本格稼働に向けて準備が進んでいる。そのうえまだ1、2工場の認可が予定されており生産能力はさらに向上する。となれば、12年には4500万台を超える見込みの中国の薄型テレビ市場は、これから建設される中国産のパネルですべて賄える計算だ。

 次に、テレビ画面の大型化がそれほど進んでいないことだ。売れ筋サイズは、32~40型に集中したままだ。事実、50型、60型クラスの大型パネルの生産をメインに考えていたシャープの堺工場も、「40型がメインで稼働している」(関係者)。つまり、32~40型であれば現行の第8世代で十分であり、G11まで大型化する必要性はないというわけだ。

 三つ目は、サムスンは次世代ディスプレイの本命として、有機ELに積極投資している点だ。今後、有機EL工場に2000億円超の投資をする予定で、さらに数千億円増える可能性もあるという。そして、このタイミングでは、G11のパネル工場と有機EL工場への投資時期が重なる可能性がある。さしものサムスンも、そこまでの資金的な余裕はない。

 しかも、「ソニーの出資はないだろう」というのがおおかたの見方だ。テレビ事業がいまだ赤字のソニーは、資産の圧縮施策を推し進めており、新工場に出資するはずがないというのがその理由である。

 とはいえサムスンは、各メーカーが思いも寄らない環境下でも、積極的な投資を行う“逆張り戦略”で成功を収めてきたのもまた事実。経営の第一線に復帰した李健熙会長の鶴のひと声で、G11工場建設が一気に進む可能性は十分にある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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