「すぐ人のせいにする子」の親が無意識に繰り返している「NG声かけ」【東大生が教える】『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第35回は、「思春期の親子関係」について考える。

「親の言葉」から、子供の思考が始まる

 東京大学現役合格を目指す天野晃一郎と早瀬菜緒だが、実は2人とも東大受験のことを親に話していなかった。親は保護者面談で初めて、桜木建二から東大受験を聞かされる。「なんでウチの子が……」「東大に?」と戸惑う2人の親を、桜木は「お母さんは息子さんを信用していない」と切り捨てる。

 作中での桜木の理論によれば、「高校生に志望大学の明確な理由なんてないから、その理由を親にうまく説明できない。すると親は心配になり、わが子の挑戦を否定してしまう」というのだ。

 たしかに私自身も、大学に入った今なお、友達との旅行から将来のキャリアに至るまで、毎日のように親から細かく詰問される。

 私は親の真意を完璧に理解できないし、する必要もないと思っている。それでも、自分の倍以上の年を重ねている両親のアドバイスは、ためになるものも多い。

 肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかは別として、思春期の子どもは親の言うことをよく聞いている。中高生の雑談でも、たいていは愚痴だが、「親が何を言った」の話題は、しばしばメインディッシュになる。

 そしてそれは、親の発言を出発点として、子どもの思考がスタートすることを意味する。そのため、とくに進路に関する発言には注意する必要があり、頭ごなしの否定はもちろん、子どもにとって有益だと感じるアドバイスであっても慎重になるべきだ。

 なぜならば、いずれ自力でたどり着くであろう決断を、他人が先回りして決めてしまう可能性があるからだ。大事なのは、「決断に至るストーリーを自分自身で構築すること」ではないか。どのような経緯で、あるいはどのような必然性により、その決断をしたのかが重要なのである。

 結果として同じ決断をするとしても、それを自分で決めたのと、他人から言われたのとでは、その後のモチベーションも全く違う。

「神話」を信じられるか、他責思考に走るか

漫画ドラゴン桜2 5巻P71『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 個人的には、そのストーリーは「神話」でいいと思っている。例えば、「交通事故で瀕死のところを助けてもらったから、自分は医者になりたい」と思う人に対して、「実は保険金の段取りをつけた弁護士こそが重要なのだ」という指摘は意味をなさない。

 つまり、行動の原動力となるくらいに、自分が信じきれる理由があればいいのだ。その「神話」の出発点や通過点を作れるのが、一番身近にいる家族だ。なにも交通事故で瀕死になる必要はない。進路のきっかけは、日々の雑談や子どもの頃の旅行先にあるかもしれない。

 作中で桜木が言う通り、「何かをしたい」という欲求を言語化することは難しい。本人さえあいまいな場合がほとんどだろう。だから、周りの人からすると、どことなく根拠や決意が頼りなさそうに見え、ついあれこれと問い詰めてしまいがちになる。

 だが、子どもの立場からしてみれば、「親が納得するための言語化」ではなく、「自分自身を納得させるための言語化」であってほしい。自分の人生を他人に委ねると、後々「自分で選んだわけではない」「失敗しても自分のせいではない」という心理的な逃げ道ができてしまう。この逃げ道は勉強をサボる理由にこそなれ、入試の採点官が同情する理由にはならない。

 逃げ道が一度できてしまうと相当厄介で、知らず知らずのうちに、他のことにまで悪い意味でのセーフティーネットを張ってしまう。「模試の席順が悪かったから」「体調が悪かったから」と他責思考に陥ると、失敗の本質に気づくことはできない。

 あなたの人生は、誰かのものではない。受験でいえば、その合格を一番喜び、その不合格を一番悔しがるべきは、他ならぬ自分自身なのである。

漫画ドラゴン桜2 5巻P72『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 5巻P73『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク