メガバンクの女性行員が失禁って…現役行員が明かす「防犯訓練」の本気度がシャレにならないレベルだった!写真はイメージです Photo:PIXTA

「変な動きするとこいつ、殺すぞ!」
窓口担当は震える手で札束を…

 パーン、パーン!

「おい!騒ぐんじゃねーぞ、こらー!このバッグに金入れろー!早くしろよ、この野郎!おい、後ろのお前、変な動きするとこいつ、殺すぞ!」

 黒いフードをすっぽりと頭から被った男が、ピストルを天井に向けて発泡する。女性のロビー担当者が背後から羽交い締めにされ、人質となってしまった。首筋にピストルの銃口を突きつけられている。

「早くしろよ!タラタラやってんじゃねえぞ、おい!」

 ドスの利いた声がロビーに響きわたる。窓口担当の村重さんが震える手で、カバンに札束を入れる。

「もっと入れろ!おい、後ろのヤツ、金庫から金持ってこい、早くしろ!」

 山川課長代理が言われるまま、現金管理機から1万円の札束を排出し、「カルトン」と呼ぶ皿に積み上げ運んでいる途中でつまずき、バラ撒いてしまった。

「何やってんだよー、急げ!」

ジリリリ!けたたましく防犯ブザーが鳴り、壁にある赤いランプが点滅すると、男はカバンを肩にかけ、一目散に支店の入り口から出ていく。それを若手の外回り担当者と庶務行員の神崎さんが、カラーボールを持って追いかける――。

「はーい、皆さん、お疲れ様でしたー!」

 私の勤務するM銀行では、少なくとも年に1度は地元警察とタイアップで防犯訓練をしなくてはならない。これをしっかり期日管理しておかないと、本部からの抜き打ち監査で大きなマイナスとなる。

 訓練中、支店周辺には「防犯訓練実施中」と書かれたのぼりやポスターを掲示する。やたら騒がしく怒鳴り声を上げたりするため、本当に強盗と思われてしまったら困るのだ。

 以前はリアリズムを追求しようと、行員に内緒でいきなり防犯訓練を始めたため、驚きのあまり失禁してしまった窓口担当者がいたそうだ。「ドッキリ企画」のようだが、思いの外大きな問題に発展してしまい、以降はしっかり行内にも告知するよう徹底されている。

 地域によっては暴力団の勢力が活発であり、所轄の刑事さんによる迫真の演技は本当に怖かった。開始前までニヤニヤ笑っていた我々も、あまりの迫力に笑顔が失せ、半泣きになる女性行員さえいた。ただし、この日は違った。