世界の自動車産業の屋台骨を支えてきた米国新車市場の落ち込みに歯止めがかからない。大型車や高級車セグメントから始まった販売減の津波はコンパクトカー、そしていまやハイブリッド車にも及び、ビッグスリーだけでなく、トヨタ自動車やホンダなどの日本車メーカーの経営にもよりいっそう深刻な打撃を与え始めている。春先には底が見えるとの年初のシナリオは、もはや吹き飛んだ。現地取材で、病める巨大市場の実態に迫った。(ジャーナリスト 桃田健史)
筆者が訪れたダラス郊外にあるトヨタ系の老舗大手ディーラーも苦戦中。在庫削減のため、ディーラーでは「原価割れでの大幅値引き」による必死の売り支えが行われている。 |
「(アメリカの自動車販売は)まだ、底が見えない」。
ロサンゼルスのトヨタ米国法人(TMS)関係者、ダラスのゼネラルモーターズ(GM)ディーラーマン、ニューヨークの日系シンクタンクエコノミスト、デトロイトの自動車雑誌編集者など、筆者が2009年3月後半に取材したアメリカ自動車業界関係者は異口同音にそう漏らしていた。
そうした言葉を裏付けるように、自動車メーカー各社が4月1日に公表した2009年3月の販売実績は、前年9月のリーマンショック以降の“負の流れ”から抜け出せていない。前年同月比で、GM(-44.5%)、フォード(-41.3%)、クライスラー(-39.3%)、トヨタ・レクサス(-36.6%)、ホンダ・アキュラ(-33.7%)、日産・インフィニティ(-37.7%)、マツダ(-33.3%)、三菱(-57.0%)、富士重工(-3.0%)となった。
各社の販売実情をモデル別で見ても、リーマンショック以来の“負の流れ”に変化はない。それは、以下の項目に代表される。
(1) V8エンジン搭載のフルサイズSUV/ピックアップトラックの販売落ち込みの慢性化。
(2) ミッドサイズSUVは、V6エンジン搭載車より直4エンジン搭載車の販売比率が増加。
(3) Dセグメント(カムリ/アコード級)セダンの販売低迷。それを、Cセグメント(カローラ/シビック級)セダンがなんとか売り支える。
(4) レクサス、インフィニティ、アキュラなど5万~8万ドルのラグジュアリ系の販売不振。
(5) ガソリン価格高騰時に比べると、低燃費が売りのハイブリッド車やBセグメント(ヤリス(ヴィッツ)/フィット級)の販売は低下基調。
こうしたなか、サンプリング調査としてトヨタカローラの販売現場を訪ねた。場所は筆者の北米拠点であるテキサス州ダラス郊外。カローラの2008年アメリカ国内販売総数は、35万1007台。カムリ(同43万4417台)と共に、トヨタの北米事業の柱となっている。
試乗前に住所や電話番号を
尋ねる余裕すらないディーラー
2009年3月21日(土)午後1時過ぎ、「Toyota of Plano」。ここは、ダラス周辺では老舗の大手トヨタディーラーであり、レクサスも併設されている。アメリカ人の友人が「新車のカローラを買いたい」というので、筆者は「(取材ではなく)お客の立場」として同行した。
トヨタ車の展示スペースの最前列と2列目にはカムリやヤリス(ヴィッツ)が、その奥にはタコマ、タンドラといったピックアップトラックが並ぶ。ミッドサイズSUVの4ランナー、ハイランダーは一時ほど在庫がなかった。