日産 消滅危機#14Photo:SOPA Images/gettyimages

ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議をスタートさせることになった。日産の業績悪化を受けて、出資交渉にちゅうちょしていたホンダが協議の席に舞い戻ってきたのだった。急転直下の婚約会見の裏では何が起きていたのか。台湾の電子機器受託製造サービス大手、鴻海(ホンハイ)精密工業は、本当に日産を狙っているのか。特集『日産 消滅危機』の#14では、電撃婚約の「知られざる舞台裏」を関係者らの証言を元に明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)

ホンダと日産の両トップが
ホンハイと統合との因果関係を否定

 昨年12月23日、ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議を始める基本合意書(MOU)を締結した。両社と協業する三菱自動車も合流し、世界のモビリティ競争で生き残りを懸けることになった。

 婚約の晴れ舞台であるにもかかわらず、記者会見に立った3社の社長の表情は終始固く、会場には重苦しい空気が漂っていた。

 全ての元凶は日産にあった。2025年3月期第2四半期決算では、営業利益が前年同期比9割減に落ち込んだ。内田誠社長が就任した19年末以降、商品不発、米国・中国市場の不振、幹部人材の枯渇など重大な経営課題を抱えていたものの、人員削減や工場閉鎖という大掛かりな構造改革に着手してこなかった付けが回ってきた。

 ホンダの三部敏宏社長は「(統合が)成就しない可能性がある」とまで発言。三菱自動車の加藤隆雄社長は「経営統合の可能性について方向性を見いだすことを目指し検討していく」と回りくどい表現でコメントを寄せた。

 3社のうち2社のトップが「統合するかどうか分からない」とも取れる姿勢を見せること自体、極めて異様だ。3社の足並みがそろわないくらい、この会見が急ごしらえだった証左なのだろう。

 記者会見では、経営統合協議を急がせた理由として台湾の電子機器受託製造サービス大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の存在があったと仮定した質問もあった。

「(今回の発表とタイミングは)ホンハイの日産への買収提案が影響したのか」という問いに対し、両社トップはこのように回答した。

 日産の内田氏の回答はこうだ。「いろんな報道を見ているが、まず、われわれに対するアプローチの事実は一切ない。われわれの将来を見たときに、どういったシナジーがあるのかという中から(経営統合の)検討に入ったとご理解いただきたい」。

 三部氏は「われわれは報道を見て知っているくらいで、何らホンダとしてホンハイの動きは全く掴んでいない」と続けた。両社トップは、ホンハイによる買収提案と経営統合との因果関係についてきっぱりと否定したのだった。

 では事実はどうだったのか。ホンハイは本当に日産を狙っているのかーー。次ページでは、電撃婚約の「知られざる舞台裏」を関係者らの証言を元に解説してゆく。まだ表に出ていない新事実が続々と明らかになった。