今、中国の経済学者、評論家の間で話題になっているのが「ルイスの転換」である。これまでは農村地域の余剰人口が都市部へと流動することで工業化が成り立っていたが、少子高齢化が進むことによって労働人口が不足しはじめ、それが人件費の高騰を招き、経済成長維持が懸念されだしているのだ。
そのうえ、中国では慢性的にホワイトカラーや技術者が不足している。これからの中国労働市場は、量より質が求められるようになり、企業にとって人材戦略が成功を左右することにもなる。
日系企業は、政府への人脈づくり、交渉術を中国人に任せてきた。また、日本留学経験者による現地従業員への教育、意識改革も行なってきたが、それもまず、人材ありきである。
ところが、さんざん募集広告を出してせっかく優秀な人材を確保しても、日本企業が欲しいと思う人材は、能力主義志向の強い人が多いため、すぐに退社してしまう。日本企業は給料が欧米企業に比べて安く、昇進のチャンスも少ないためだ。
中国人技術者のレベルは確実に向上している。大学進学率は中国が3割、日本では5割だが、理系の大学院進学率や欧米の大学院への留学率を考えると、中国人技術者のほうがはるかに層が厚い。実際、日系企業を訪問すると「精華大学大学院などの理系出身で博士号取得者などは、日本人技術者より人件費が安くてレベルが高い」と評判がいい。今後は、中国人の技術系・理系の人材をいかにうまく活用できるかどうかが、日本企業の成功の秘訣といっても過言ではない。
いかにモチベーションを上げるかが
中国人活用の際のポイント
ここで、中国人に対する人材マネジメントに成功したいくつかの企業の取り組みを紹介しよう。
山東省で冷凍食品など生産する「加ト吉」のケース。同社は、農学・微生物学などの博士号取得者の採用に力を入れているが、人材の専門性が高い分、コミュニケーション能力が不足している可能性もあるので、採用面接を非常に重視している。また、他の部門では、多くが食品関連会社での経験がある人材を採用している。中国人同士の上下関係や派閥ができないように出身地を配慮し、河北省、湖南省、吉林省から幅広く採用している。
幹部候補は日本本社で採用する。京都大学大学院などで農学などの博士号を取得した中国人留学生である。本社や日本国内の工場で数年間働き、日本の習慣を身につけさせる。中国との違いを習得させ、本社の意向を十分に理解したうえで、中国に「副総経理」などの肩書で送り込む。日本で留学経験のある中国人を幹部にすることで、現地でも日本式の経営方針を伝達しやすい。同社が中国現地化をさせず、なおかつ日本式を押しつけているわけでもないのは、日本人幹部が1-2人しかいないことからわかる。