
コメの価格高騰を巡る議論が紛糾する中、注目を集めるのが「コメ農家は時給10円」とする試算だ。しかし、この「時給10円説」には、重大な論理の飛躍があり、コメ農家の現状を見誤る恐れがある。また、農家の状況を検証すると、赤字農家が営農を継続する「意外な理由」が浮き彫りになってきた。コメ農家の利益構造や原価を、データを基に徹底解明した。(フリーライター 村上力、ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
小規模農家の経営が苦しいのは事実だが…
稲作の主役は、儲かる農業を実践する大規模農家
「コメ農家の時給は10円」――3月末、東京・青山で元農相の山田正彦氏が発起人となる「令和の百姓一揆」を標榜する団体が、トラクター30台を伴いデモ行進をした。団体は、コメ農家が「時給10円」の状態に置かれているという窮状を訴え、テレビ・新聞に大々的に報じられた。
この団体の主催するクラウドファンディング募集ページには、次のようなメッセージが掲げられている。
〈かろうじて現在の食料自給率を維持してきた日本の農家も「時給10円」で、それでも頑張ってきましたが、もうこれ以上農業を続けられない状況にあります〉
時給10円とは、ほとんど無償でコメを作り続けているのと同じである。報道を見た多くの人は、コメを食うのが申し訳ない気持ちになったのではないか。
しかし、時給10円説の根拠となっている資料を精査すると、少なからぬ「論理の飛躍」があることが分かった。果たして日本のコメ農家は本当に「時給10円」なのか、検証していく。