なぜ歴史を知ると、旅がこれほど深くなるのか?
歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。第166回直木賞をはじめ数々の賞を受賞してきた歴史小説家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語る。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【GWの計画】直木賞作家が教える…忙しい生活からの逃避行「聖地巡礼」のススメPhoto: Adobe Stock

歴史を知れば旅が変わる

 歴史に興味を持てば、旅の仕方が変わり、寺社仏閣や城をメインに旅行計画を立てるようになるかもしれません。

 城や寺社以外にも、歴史を感じさせるものは無限にあります。たとえば、室町時代の着物が好きになったら、着物をテーマに旅をする楽しみが生まれます。興味のあるものから広げていけば、自分だけの旅を追求していけます。

「好き」が深まると、旅はディープになる

「好き」が強くなると、対象が細分化していくこともあります。たとえば、電車好きは車両を愛でる「車両鉄」、路線の乗りつぶしに励む「乗り鉄」、鉄道写真を撮って楽しむ「撮り鉄」、時刻表を見ながら架空の旅にふける「時刻表鉄」などに分類されます。

 同じように、ひと言で「城好き」といっても、天守閣だけ好きな人や石垣だけ好きな人、破風(屋根の三角になっている部分の側面)だけを強烈に愛している人もいます。自分が好きなものをマニアックに追い求めていくのも悪くありません。

歴史小説の舞台をめぐる「聖地巡礼」

 別のディープな旅の楽しみ方は、歴史小説に出てきた舞台を巡るというものです。

 たとえば『竜馬がゆく』を読み、坂本龍馬にゆかりのある場所を一つひとつ訪ねていくという「聖地巡礼」の旅です。龍馬は生前あちこちを動いた人なので、全国各地に「聖地」があります。

龍馬の足跡をたどる全国の名所

 東京であれば、龍馬が剣術修行をしていた千葉定吉道場跡が、東京駅に程近い中央区八重洲にあります。

 京都には龍馬が伏見奉行所の捕り方(罪人をとらえる役人)に急襲され、難を逃れた寺田屋もありますし、神戸海軍操練所跡地はかつて龍馬が操船術を学んだ場所として知られています。

 龍馬は海軍操練所の設立基金の援助を福井藩に求める際の使者になっており、福井市内でもいくつかの史跡を見学することができます。

 また、いろは丸沈没事件の談判を行った場所が広島県福山市の港町である鞆の浦に残されていますし、龍馬が日本で初めて新婚旅行をしたとされる鹿児島県霧島市を訪れてみるのも一興です。

 長崎には亀山社中記念館やグラバー園など龍馬の足跡を残す場所がいくつも存在しています。たとえば、史跡料亭 花月には、龍馬がつけた刀傷の跡が床柱に残る「竜の間」もあります。

龍馬リスペクトが満ちる高知を訪ねて

 そして、絶対に外せないのが龍馬生誕の地・高知です。高知を訪れると、そこで龍馬がいかにリスペクトされているかを肌で感じることができます。

 県内にいくつもある龍馬像を撮影して回るのも楽しそうですし、「龍馬脱藩の道」を自ら歩けば彼の志に思いをはせることができるでしょう。

 坂本龍馬脱藩のルートについては、ネットでキーワード検索をかけるといろいろとヒットしますが、たとえば「脱藩の道.com」などを参考にしてみてもよいでしょう。

「同じ景色を見たい」から始まる歴史の旅

 このように歴史小説好きの中には、「主人公が死んだ場所を見てみたい」「主人公が見ていたのと同じ景色を見てみたい」という人が、けっこういます。

 京都の醍醐寺という寺は桜の名所の一つですが、豊臣秀吉が「醍醐の花見」を行った場所としても知られています。醍醐寺で桜を見れば、秀吉が見ていたのとほぼ同じ景色を堪能できるわけです。

教養も旅の目的になる

 こういった歴史を巡る旅は、お金はかかりそうですが、身につく教養度を考えればコスパの良い趣味だと思います。歴史を巡るだけでなく、同時に地元のグルメや美術館を楽しむのもアリですし、スポーツイベントの遠征にからめて歴史旅をしてもいいのです。

 テーマパークで遊んだり観光地で食べ歩きをしたりするのもいいでしょう。私自身も大好きです。でも、たまには歴史旅も楽しんでいただけたら嬉しいです。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。