イーロン・マスクによるツイッター買収劇とその後の混乱を描いた『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。本書はメズリック氏による関係者への徹底的な取材をもと、マスクの知られざる顔に迫る衝撃ノンフィクション小説だ。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「面白くて一気に読んだ」など絶賛の感想が相次いでいる本書。今回は本書の発売を記念し、ツイッター買収騒動の最中にツイッター全社集会で「イーロン・マスクが語ったこと」を一部抜粋・再編集してお届けする(全3回のうち第2回/第3回に続く)。

【買う意味ある?】ツイッターの「青バッジ」が“月額制アイコン”に変わった瞬間Photo: kovop58/Adobe Stock

ツイッターの「詐欺問題」に切り込むマスク

「ボットやスパムのアカウントが、いま、難しい問題になっていることはまちがいありません」―そう言いながらマスクは、カメラがついていくのに苦労するほど体を大きくゆらした。

「ツイッターでは詐欺も横行しています……問題児もいます。ボットではなく、ひとりで何百アカウントも動かし、本当はそうでないのに、それぞれ独立しているかのようにみせかけるのです。ツイッターを信頼してもらうには、このあたりをすっきりさせる必要があります」

ボットもトロールも問題だという件も、マスクの意見に反対する人はいないはずだ。

ところがマスクが解決案を提示すると、スラックに緊張が走った。

解決策は「月額3ドルの認証バッジ」?

「この件については、私に考えがあります。ツイッターブルーの認証を使えばいいのではないかと思うのです。

セレブであることの証しではなく、ツイッターブルーの料金を払っていることの証しとするのです。

認証は決済システムでやります……個人につながる認証があれば、おそらくはボットでもスパムでも、また、何百ものアカウントを動かしている人でもないと明らかにできます。

月額3ドルくらいでね。この方法はかなり使えるはずです……」

「ブルーチェック」の価値は保たれるのか?

うーむ。マークは椅子の背に身を預けた。

いま、セレブやジャーナリスト、政治家などのアカウントにつけているブルーチェックを売るという話に聞こえるが、そういうことなのか?

月3ドルを払う余裕があると示す以外の意味がなくなるのに、その認証にお金を払う人などいるのだろうか。

百歩譲って払ってもらえたとして、そのとき、対話や交流にどういう影響が出るのだろうか。

どういう人にチェックがつくのかよくわからないなど、ブルーチェックにも問題があるとはいえ、それでも、書かれていることの信頼性を判断する一助にはなっている。

すべてのツイートは平等だが、ツイッタラーにはグラデーションがあるのだ。

「信頼性」を担保してきたブルーチェック

一方、広告主と仕事をしてきた者として、うなずけるものはある。

セレブやジャーナリスト、政治家、会社を代表する人などが問題投稿をした場合、それが誰の投稿であるのかくらいはわかるからだ。

そういう投稿であれば、なにがしかの責任や威信が伴うし、なにごとかあった際にはその責めを負うといったことにもなる。

書かれていることに反対かもしれない。不満に感じるかもしれない。無視しようと思うかもしれない。賛同するかもしれない。

いずれにせよ、理論的には、それがどこの誰から出てきたものなのかわかるわけだ。

「信頼性」よりも「公平性」を優先するのか

でもそのブルーチェックを誰でも手に入れられるようにしたら、どこから出てきた投稿なのかわからなくなってしまう。

クレジットカードを持っているという以上のチェックをツイッターがしているとは考えられなくなってしまう。

そのほうが公平だとは言えるかもしれないが、実際問題として、そうすれば、なにがどうなっていまより安全で活発なプラットフォームになるのかマークにはわからなかった。

マスクはこのあたりを本気で考えているのだろうか、それとも、いま思いついたことを口にしているだけなのだろうか。

よく考えた上の言葉であるように聞こえるが、そもそもマスクという人物をよく知らないわけで、単にそういう話し方をする人なのかもしれない。

(本稿は『Breaking Twitter』から本文を一部抜粋、再編集したものです)