いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

ビジネスの正解とは?
えらそうなことは何も言える立場ではないが、「どうやって売れる本を作るか」というのは常に考えているテーマの一つだ。
「どうやって売れる商品を作るか」。もしくは、「どうやってこの商品をヒットさせるか」。
これは多くの人に共通している課題だと思う。
いかにいいアイデア、企画があっても、商品として良いかたちになり、それを欲しい人に発見され、広がっていくようにするには数々の課題がある。一冊の本を作る際にも、著者、編集者をはじめ関わる人みんなで毎回悩んでいる。
さまざまな方法論はあり、精度の高い作り手は実際にいるわけだが、真似すればみんな成功するというような正解があるわけではない。
できるのは、最善を尽くすこと
ベストセラーをたくさん出している著者のA先生と打ち合わせをしていたときのことだ。一通り盛り上がったあとで、
「あとは運」
アッサリそう言うのだった。「最善は尽くしたけど、まぁ、売れるかどうかは運だからね」と。
そうなのだ。本当に実力があり、その世界のことを熟知している頭のいい人ほどこう割り切っている。
いい作品にするために考え、話し合い、広めるための方法についても学び、思いつくことは全部やり、最善を尽くしたあとどうなるかは運。「大ヒットした」「ベストセラーになった」という結果を決めるのは、どう頑張っても自分ではない。
ストア哲学者のセネカは、「賢者は理由を重視し、結果に関心を示さない」と言っている。
賢者は理由を重視する
始まりは自分できめられるが、結果を決めるのは運だ。
しかし、わたしは運に判決を下させるつもりはない。(セネカ『ルキリウスに宛てた道徳書簡集』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
A先生は良い作品を作り上げることにこだわりがあるが、もはや結果にはさほど関心がないようだった。「売れなくても私のせいじゃないし」とおっしゃる。さすが、賢者の態度である。
私はなかなかこの境地に至れない。だが、結果に執着するよりも意図や行動に焦点を当てるべきであることはわかる。というか、良い結果を目指して行動するほかない。
結果を決めるのは運だが、セネカは「運に判決を下させるつもりはない」という。つまり、結果が良ければ「良い」、結果が出なければ「悪い」というように判断するのではなく、そもそもの意図、行動の理由こそがもっとも大事だということだろう。
なぜ、私はこの作品(商品)を作りたいのか?
なぜ、必要だと思ったのか?
そもそもに立ち返る考え方は、作り手にエネルギーを与えてくれる気がする。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)