世界的な経済危機によって急落した原油価格が、春先から上昇に転じ、今や1バレル=70ドル台まで高騰している。景気底打ち観測が広まり始めたとはいえ、「回復のペースが速すぎる」と不安視する企業関係者は多い。その背景には、何があるのか? 商品市場分析の第一人者である柴田明夫・丸紅経済研究所所長が、知られざる内幕を解説する。柴田所長は、現在を「21世紀型産業モデル」への移行期と位置づけ、現状に対応可能な企業体質を構築する必要性を説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

しばた・あきお/丸紅経済研究所所長。1976年東京大学農学部卒業、丸紅入社。鉄鋼営業部門、調査部門などを経て、2006年より現職。原油・非鉄金属など商品市場分析の第一人者として、経済誌・テレビ出演多数。経済企画庁(現内閣府)、農林水産省などの政策審議会にも参画。主な著書は『資源インフレ』『食糧争奪』『コメ国富論』など。

――世界的な経済危機によって急落した原油価格が、再び顕著な上昇傾向にある。WTI原油価格は、8月下旬に年初来高値となる1バレル=75ドルまで上昇した。昨年から今年にかけ、市場はどのように動いたか?

 2008年年初に1バレル=100ドル台を突破した原油価格は、7月に過去最高の150ドル近辺まで高騰したが、世界的な景気後退が始まったため、年末にかけて急降下した。

 それまでの高騰ぶりがウソのように、09年1~2月はピーク時の5分の1となる30ドル近辺まで落ち込んだほどだ。

 しかし、3月には事実上の「底打ち」が訪れて価格は上昇に転じ、6月には70ドルを回復。直近では、一時80ドルを試す水準まで高騰した(下のグラフ参照)。

 程度の差こそあれ、このような上昇傾向は、銅やアルミニウムなどの非鉄金属も含めた資源全般に見られる。特に原油については、「春以降の高騰ペースは速すぎる」という印象だ。

原油価格の推移

――原油が再び高騰し始めた背景には、どんな理由があるのか?

 今回の上昇は、基本的に「下げた分の反動」と見ている。下落が急だったぶん、予想以上に早く「原点回帰」の動きが起きているのだろう。

 リーマンショック以降、世界経済は急速に悪化した。失業率の増加に伴い、個人消費が冷え込んだ結果、家電製品や自動車の買い控えが起きた。企業は大幅な生産・在庫調整を余儀なくされ、エネルギーや非鉄金属の実需が落ち込んだ。