
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第7回は、即クビにするべき「問題社員」の特徴に迫る。
経営者が親友の「クビ」を迫ったワケ
元ボクシング世界王者を経て、飲食店経営者に転身した花岡は、「ホームレスを10人採用して事業を立ち上げる」という条件のもと、実業家・塚原から1億円の出資を受けることに成功する。しかし塚原は、花岡の同郷の友人であり、現在のビジネスパートナーでもある木村ノブを解雇するよう花岡に迫る。
以前、塚原から「ホームレス雇用」の条件が出された際、一度は出資の受け入れを迷った花岡。その場面でノブは、花岡が答えを出すより前に塚原に土下座し、「出資の話をなかったことにして欲しい」と頼んでいた。塚原はそんなノブを「突発的な行動を起こす人間」として問題視し、解雇を迫ったのだった。
「ビジネスは理詰めの世界。そこは最後まで自分の利益は理屈で守る人間でなくてはならない」
ノブを切ることができない花岡は、「ノブには飲食部門を任せ、新規事業には一切関わらせない」という条件を提示することで、塚原を了承させる。だが塚原は「いずれ君は彼と決別する時が来る。その覚悟だけはしておけ」と忠告を残す。
「全員当選」ガラガラ、納得のカラクリ

塚原との交渉を終えた花岡は、いよいよホームレスの採用に動き出す。採用のチラシをばらまき、テーブルと抽選器(いわゆる「ガラガラ」)、椅子を用意する。抽選器を置いたテーブルに「赤玉当選(採用)、白玉外れ 10名出た時点で終了」と書いたボードを立てかけた花岡は、椅子に座ってホームレスの行動を待つのだった。
詳細はマンガで確認してほしいが、実はこの抽選器の中には「当選」の赤玉しか入っていない。つまり、早く回した人間だけが仕事にありつけるという仕組みだったのだ。
種明かしをした後、花岡はこう語る。
「まず守ることを考えるやつはいらねえってことだ」「ここで腹をくくったやつだけがチャンスをつかめる。みんなが気づいたら、それはもうチャンスじゃねえんだよ…」
花岡の考え方は、ビジネスの世界で言うところの「ファーストペンギン」と非常に似ている。ペンギンは通常、集団で行動するのだが、特定の「リーダー」を作らないのだという。
そんな「かじ取り」がいない集団において、意を決して海に飛び込む最初の1羽のペンギンがいたとすれば、誰よりもリスクを取ることで、誰よりもリターン(エサ)を得ることができるわけだ。
集団の中から、最初に海に飛び込む1羽のペンギン。起業やビジネスに当てはめて言うならば、新しいビジネスモデルに挑戦する、新しい市場に飛び込む……どころか新しい市場自体を創造する――そんな挑戦をする人や企業のことを、称賛の意味を込めてファーストペンギンと呼ぶのだ。
ホームレスを採用して新規事業を立ち上げるという課題に取り組む花岡。そして、今の環境を変えるために、誰よりも早く抽選器を回したホームレスらも、同じような挑戦者ではないだろうか。
自ら抽選器を回した3人を含め、10人のホームレスを採用した花岡。飲食事業をノブに託し、いよいよ新規事業を模索し始める。

