長らく金融の現場にいて、人は、自らの心理的な動きからは逃れられない存在であることを目の当たりにしてきた。1980年代に、そうした分野を研究する行動経済学・行動ファイナンスという学問が米国にあると知って、うれしく思ったことを覚えている。
この連載では、投資と心の問題をわかりやすく、具体例を交えながら述べたいと思う。
さざ波を大波と感じてしまう心理
9月7日に発表された米雇用統計は、マーケットの事前予想が非農業部門雇用者数10万人の増加だったのに対し、発表はマイナス4000人だった。増加予想が逆に減少となり、株価もドルも大きく値を下げた。例えば、ドル円は115円台から一気に113円台に大幅下落し、その後、112円台をつけた。
人は、さまざまな事柄にこだわりを持つ。冷静に考えれば、この経済指標への反応は大きすぎるものだと思うが、マーケットは大騒ぎとなった(意識的か無意識かは別として、マーケットは価格が崩れるかのようなマイナス材料を待っていたという感じはある)。
例えば、以下の例で考えてみてほしい。
ある経済指標は、+20から-20までの間で動くことが多いとする。
A.マーケットの事前予想が+10だったものが、発表が+8だった。
B.マーケットの事前予想が+1だったものが、発表が-1だった。
どちらのほうがマーケットへの影響は大きいだろうか。