生産性が上がって付加価値が増えれば、賃金が上昇して消費が増加し、結果として経済成長率が高くなるというのが本来のセオリーだが、日本はそのちょうど逆の状態に落ち込んでいる。日本労働組合総連合会の2024年第1回集計における平均賃上げ率は5%を超え、一見喜ばしいことのようにも思えるが、じつは決して無視できない“ある危険”をはらんでいるという――。本稿は、野口悠紀雄『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
目の前の大幅な賃金上昇を
手放しでは喜べない
2024年の春闘で、高額回答が相次いだ。日本製鉄は、定昇込みで前年比14.2%の賃上げというきわめて高い回答だった。電機大手や自動車大手でも、満額回答が相次いだ。連合が3月15日に発表した第1回集計では、平均賃上げ率は5.28%になった。
連合の3月4日時点の集計によれば、要求平均は5.85%だった。実際の賃上げ率はここまで届かないにしても、2023年の3.6%を大きく上回る。全産業の賃上げ率見込みは、1月時点の民間予測平均で3.85%だったが、見通しは上方修正され、5%台になるとの見方もある。
このような高率の賃上げと値上げによって、賃金と物価の好循環が始まり、日本経済がこれまでの停滞状態から脱却するという見方が一般的になった。日銀は、賃金と物価の好循環が確認されるので、金融正常化に踏み出すとした。
2024年の春闘での連合の目標である「5%以上」の内訳は、定昇2%、ベアが3%以上だ。
仮にこれが実現でき、かつ消費者物価の上昇率が今後高まるようなことがなければ、少なくとも春闘参加企業については、実質賃金下落の状態から脱却できるだろう。