トルコの2009年第1四半期(1~3月)の貿易統計に、関係者が首を傾げている。品目別輸出額で、貴金属が1位になったのだ。04年から08年末まで輸出の首位は自動車および同部品であり、08年通年では貴金属は8位にすぎなかった。貴金属輸出の内訳は、ほとんど「金」で、スイス向けが66%を占める(数量ベース)。これにより、輸出相手国第1位も、ドイツからスイスとなった。
背景には、まず輸出全体の低迷がある。主要輸出先である欧州の景気後退の影響が直撃し、自動車および同部品は前年同期比54%減。他の輸出品目も軒並み20~30%の減だ。そのなかで、貴金属だけが49%もの増となった。「トルコはもともと金製品の世界的加工基地の一つであり、金現物の輸入が活発だが、昨年末以降の金価格上昇で一般投資家などの売り戻しが起きた」(池水雄一・スタンダードバンク東京支店支店長)結果と見られる。
一方で貿易収支赤字は急減し、長らくトルコ経済の問題とされてきた経常収支赤字は前年同期比91%もの縮小となった。もっともこれは、内需低迷で輸出以上に輸入が減少した結果で、構造的な問題が解決したわけではない。
IMF(国際通貨基金)による09年の実質経済成長率予測は▲5.1%。「各種指標は底打ちしているものの、本格的な回復は輸出主導でしかありえないため、12年頃までは低成長が続くだろう」(田村喜彦・日本格付研究所チーフアナリスト)。政府とIMFのあいだで続く融資交渉も、財政出動の是非をめぐって意見が折り合わず、いまだ結論が出ていない。
市中の金が売りに回る構図は、日本を含む他国でもあるが、貿易統計の順位が入れ替わるほどではない。トルコの金流出は、経済の苦境を顕著に示しているのである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)