景気低迷が続くなか、高収益を上げ続け、2009年2月期には売上高が1000億円を突破、10年2月期は前年比16.6%増の売上高1135億円を実現したABCマート。現在国内で550店舗以上、韓国でも70店舗以上を展開、そして昨年10月には台湾にも店舗をオープンさせた。

こうした同社の売上好調・店舗拡大の背景には、『顧客のニーズ』を反映するというシンプルだが最も重要な戦略を形にするために、「ナショナルブランド商品」と、自社で企画から販売までを行う「オリジナル商品」をミックスして販売していることが挙げられる。また、現場における人海戦術などの面でも注目される同社の人材育成にもそのカギがありそうだ。そこで、ABCマート野口実社長に売上拡大を続ける同社の「現場」の強さの秘訣と、今後の展望について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子、撮影/宇佐見利明)

「売れ残りの革ジャン」が上野で売れた!
その経験をきっかけに小売りの世界へ

――現在では、「靴専門の小売店」というイメージが定着しているが、もともとは卸業だった御社が小売に進出されたきっかけは。

ABCマート野口実社長

 小売を本格的に始めたのはこの8、9年ですが、店を始めたきっかけは20年以上前になります。その頃は並行輸入が主体で、アメリカなどから購入した商品を小売店に卸していました。

 私の入社以前のことで、先輩などから聞いた話によると、きっかけは当社が卸した革ジャンが大量に余ってしまったことだといいます。その革ジャンをなんとか売ろうと、お世話になっている上野のある小売店の一部を間借りして、自分たちで販売することになりました。すると、これまで卸でまったく売れなかった商品が飛ぶように売れたそうです。ちゃんと自分たちで接客すれば売れるんだとわかって、自分たちの店を出そうということになり、出店に至りました。

――当時、「卸だけではやっていけない」という危機感もあったか。

 危機感が急速に高まってきたのは、ちょうど2000年頃。バブルが弾け、企業の倒産も相次ぎ、この業界自体も環境が悪化したことで、卸先のお客様に信用不安が出てきていました。卸は順調でしたが、売掛金などの回収リスクの問題を考えたことが、小売りに進出する理由の1つとなりました。

 また、卸では、お客様に自分たちの作った商品や卸した商品を思うように陳列・販売していただけないという問題もありました。そうしたなかで、自分たちで消費者まで届けていきたいと感じていたのも事実です。