優先課題は人権か、国家か――。
トランプ発言で巻き起こる大激論

 ディベートが終わるや否や、トランプの発言の正誤を巡り、ネット上では次々と「ファクトチェック」の情報が流れていた。そのとき、劇場側が壇上に招いた地元のパネリストたちの間では、ディベートの争点の1つである「人種問題」がホットな火種となった。

 警官の発砲により、ルイジアナなど米国各地で黒人男性が射殺された一連の事件を巡って、各地で暴動や反対運動が起きていることを受け、白人男性でアクション映画に多数出演してきた俳優のパトリック・キルパトリックはこう言った。

「ブラック・ライブズ・マターのムーブメントは、逆に人種対立を助長しているようだ。アイルランド人を先祖に持つ自分の家族だって、イギリス人にさんざん痛めつけられてきたから気持ちはわかるが、2016年に過去の奴隷制のことをあれこれ言っても先に進まない」

 その発言をきっかけに、激論が起こった。ヒラリー支持者の黒人女性の政治コンサルタントが声を上げた。

「ワシントンに新しくできたアフリカン・アメリカンの歴史と文化の博物館の展示を、パトリック、ぜひあなたに見てほしい。この国の歴史を語るのに、奴隷制の過去と黒人の過去は、決して無視できないってことが、よくわかるから」

 すると、LAのトランプの選挙運動チームの一員であるジェームズ・シャンブロムはこう言った。

「この場で人種問題やゲイの人権問題を語るのも大事だけど、国家としてアメリカがどうあるべきなのかという大きな問題を話し合う方が、より大切なような気がするけど」

 するとハリウッド・リポーター誌のジャーナリストでラジオ番組のホストも務めるジャレット・ヒルがこう切り返した。

「白人男性であるあなたがそう言うのは簡単だよね。特権を持って生まれてきてるから。黒人男性である自分には、人種はとてつもなく大きな問題なんだ。差別された経験のないあなたには、なぜ私があえて黒人大学を選んで進学したかもわからないだろうけど」

 すると、シャンブロムはこう言った。

「あなたが差別されたのはひどいことだし、あってはならないこと。でも、私があなたを差別したわけじゃない!」

 そこで時間切れとなり、緊迫した議論は途中で打ち切られた。「白人男性だからってだけで、ひとくくりにして差別しないでほしいよ」とシャンブロムがつぶやきながら、ステージを降りる。ポップコーンの袋が床に散らかった劇場から、観客たちが帰り始めていた。