片や、警察関係者だけでなく、民間でも頭を抱えているのが、スーパーなど小売店関係者だ。

「万引で捕まえても、認知症を装うケースが多い。明らかに計画的な犯罪だが、医師ではないので詐病とも断言できない」

 小売業界の各団体が参加する全国万引犯罪防止機構の幹部はそう憤りを隠さない。それもそのはずだ。万引といえば、未成年の犯罪と誤解されがちだが、さにあらず。13年の万引摘発者数は約8.5万人。このうち、3分の1が65歳以上の高齢者で、年代別でトップなのだ(上図参照)。

 同機構の試算によれば、14年の万引の損失額はスーパーマーケットと食品スーパーだけで935億円だ。

 同機構は先月の臨時総会で、認知症やそれを装う万引への対策の必要性を訴えたが、有効なすべは見当たらないのが現状だ。逆に、認知症患者が、食い物にされる事例も枚挙にいとまがない(右図参照)。

鉄道死亡事故で問われた
家族の監督責任

 14年4月24日。認知症の家族を抱える人々にとって、まさにやり切れない日となった。

 07年に愛知県の東海旅客鉄道(JR東海)の駅構内で、当時91歳の認知症の男性が徘徊中に電車にはねられ死亡する事故が起きた。協議による賠償の折り合いがつかず、JR東海は、遺族の監督責任を問い、損害賠償訴訟を起こした。

 その控訴審判決がこの日、名古屋高等裁判所で下され、結果は、一審に続いてJR東海側の勝訴。名古屋高裁は男性の妻に360万円の支払いを命じた。JR東海、遺族の双方とも最高裁へ上告し、いまだ決着はついていない。

 家族側に同情が集まる中で、鉄道業界関係者もまた「企業が全ての責任を負えというのか。こうした事故で乗客が負傷したときは、その責任を誰が持つのか」と憤る。

 同居の家族など「監督者」の責任が問われる事故や事件は今後も増えることが予想される。

 トラブルはこのような直接的な事例にとどまらない。ある地方自治体幹部は「認知症の単身世帯は、ごみ屋敷化することが多い。火の不始末を懸念するご近所とトラブルになるケースも増えている」と警告する。家族に認知症患者がいないからといって、頬かむりできる問題ではない。

 宿題山積みのまま、認知症社会が到来したのだ。