居酒屋の王道とは何か

 ボヤ騒ぎは配線工事ミスが原因だったが、新町がそんなことを言い訳にしても、近所は許してくれなかった。そして、客も寄り付かない。それでも、彼は毎日、夕方からのれんを出して営業した。声を振り絞って営業した。そうしているうちになんとか地獄を抜け出しだ。なんと、今では予約しないと入れない店になっている。

「海鮮居酒屋という形式が当たったのだと思います」

 町中にたくさんある「なんとか水産」という店の原型がトロ函だ。活きの鮮魚、貝をテーブルに載せたコンロの上で焼いて食べる。自分で魚を焼いて食べる楽しさがある。店内のインテリアは漁船のランプ、魚を入れるトロ函を駆使した、漁師の番屋といった雰囲気に造ってある。何より値段は破格に安い。サラリーマンの宴会にはぴったりだし、子どもがいる家族連れにもいい。

 問題は簡単にパクられてしまい、そっくりの店ができ、しかも、そちらの方が店舗数が多くなっていることだろう。しかし、新町は気にしていない。

「真似はしょせん、真似ですよ。うちは王道を往きます」

 王道とは何ですかと訊ねたら、「鮮度がいい魚を安く出すこと。うちだけのメニューを作ること」とのことだ。