築地の人たちが愛する店
長生庵は築地の場外にある、一見、普通の日本そば屋だ。朝の7時から営業している。その時間に食事をしている、あるいは一杯やっているのは、市場に仕入れに来ている飲食店の人が多い。
「朝からよく食べる人もいれば、ビールや日本酒を飲む人もいます。でも、主流は腹ごしらえする人たちかな」
店主の松本聰一郎氏はそう、うなずく。
「朝、みんなが食べるのはそばですか、それとも丼ですか?」と訊ねたら、「うん。いろいろあるけれど、いちばん人気はもち豚を使ったカレーそば(1300円)」(店主談)とのこと。 早速、それを注文した。
運ばれてきたのを見て、あんぐりと口が開いたまま、閉じることができなかった。丼が大きい。中身も多い。大きな煮豚が3切れ、カレー味のつゆに浮かんでいた。しかも、つゆのなかにも豚肉が何切れも投入してある。そばもいくら食べても減らない。
朝から、これだけの量を平らげる飲食店の人たちは健康そのものだ。
カレーそばに限らず、長生庵は何を頼んでも量が多い。そのことを店主に伝えたら、「ダンナがお客さんには腹いっぱい食べさせたい人だったから」……。
店主が言う「ダンナ」とは亡くなった彼の父親、好生(よしお)氏のこと。故好生氏は一度、普通の会社で働いた後、「食いっぱぐれがない仕事がしたい」とそば屋になった。
ダンナは腹を減らした客がやってくると、ついつい大盛りにしているうちに、それが癖になってしまったと思われる。だから、長生庵はそばでも丼でも、ボリュームたっぷりだ。