少し、私自身の話をしたいと思います。私はよく皆には驚かれるのですが、元来はものすごいあがり症なのです。だからテレビ番組などの本番前はいたたまれません。ドキドキしてしまうのです。

 緊張を抑える術を何とか私は習得しました。私は手に汗をかきます。だから必ず手を洗います。ゆっくりと念入りに洗います。それで本番に向けたスイッチを入れる。これが習慣化しています。「よし、行こう」と思えるのです。

 逆に言えば、手を洗いたくならない時は、手に汗をかいていないわけで、この状態はよくありません。あがってはいないのですが、習い性になっているか、いまいちやる気がないかのいずれかだからです。それではいいパフォーマンスは望めません。

 本番の多くを慣れでこなしている人は、そのことに気がついていないから、時に、おもしろい大ドジを踏んだり、逆にファインプレーをしたりすることがあります。これは大変に怖いことです。

 あるお笑い芸人が昔、こんなことを言っているのを聞いたことがあります。「俺たちは人に笑われているのではない。笑わせているのだ」と。ごもっとも。しかし、多くのお笑い芸人は観客に笑われているように思います。そういう芸人のブームは短く、早晩、飽きられてしまうわけです。

 これは、お笑い芸人だけの話ではもちろん、ありません。

準備をしっかりするから
斬新な発想も生まれる

 またイチローの話に戻りますが、彼はファインプレーが意外と少ない。それは、打球がどこに飛ぶかを予測して、先に走って待ち構えているからです。彼は「ファインプレーを狙うのはいいことではない。身体に負担がかかるし、ケガをするかもしれない」と言うのです。

 実は、これは孫子の兵法に通じる考えです。このような一節があります。『古のいわゆる善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名なく、勇功なし。(中略)すでに敗るる者に勝てばなり』

 孫子は「よき将軍は決して華々しい武功を上げない。しっかりとした準備をして、敵の動きを察知し、勝つべくして勝つ。戦わずして勝つことこそ最善の戦い方である」と述べています。

 すべてに共通する話が「事前準備」の重要性であるわけです。