入院患者が路上で酒盛りする姿も見られる西成「あいりん地区」。はたからは自堕落に見えるだけの光景だが、ホームレスたちや、彼らを支援する行政、NPO関係者から話を聞いていくと、貧困ゆえに社会生活を営む上で最低限の知識すら身につけられていない彼らの哀しみと絶望が垣間見えた。(写真・文/フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

点滴しながら酒をくらう
酒は西成住民の必需品

「わいらにとって酒は万能の薬なんや!なんか文句あるんかい!!」――。

「風邪を引いたら酒で消毒、病気や怪我の痛みにも酒」――冗談とも取れる言い分だが、背景を取材していくと、そう言うしかない彼らの哀しみが見えてきた。(写真:秋山謙一郎、以下同)

 大阪・西成「あいりん地区」の玄関口ともいえる場所にある「あいりん労働福祉センター」。地元民の間では“センター”と呼ばれるここには、病院も併設されている。

 平日の日中、記者がこの辺りを歩いていると、この病院に入院中の患者と思しき人たちが車椅子に点滴を携えて路上で“酒盛り”しているところに出くわした。

「(酒を飲んでも)ええんですか?ご主人、入院中とちゃいますの?」と声掛けすると、そのなかの1人から、「なんやオノレ?行政か、医者か?堅いことゆうとったらシバキ廻すど。アホンダラ!」と、早速、「西成」ならではの“洗礼”を受けた。

 もっとも文字にするとキツく聞こえるこの言葉も、標準語に訳すと、「あなたはどちら様でしょうか?行政関係者、それとも医療関係者です?あまり堅いこといわないでくださいね」という意味である。「シバキ廻すど」や「アホンダラ!」は、「こんにちは」「お元気ですか?」などの挨拶に相当する親しみを込めた言葉だ。

そこら中にある酒の自販機。その周辺では、酒を飲んだまま路上で眠る人たちが大勢いた

 なぜそう言い切れるのか。彼らから、「まあ、一杯」とばかりにワンカップ酒が記者に手渡されたからだ。記者に洗礼をしてくれたのはユタカさん(66)。西成での酒について、早速講釈が始まった。

「ここ西成ではな、風邪引いたら喉を酒で消毒する、病気して痛みがあれば酒をかっくろうたら体中、消毒できるがな。怪我してもキツめの酒飲めば一発で治るんや……」

 たしかに、西成と酒は、切っても切れない関係にある。早朝8時から開店している居酒屋もあるし、至る所にアルコールを扱った自動販売機が設置されている。その周囲では、簡易宿泊所(ドヤ)で寝泊まりすることもできない日雇い労働者たちが酒を呷って、そのまま路上で寝ている。