全米で話題沸騰中の21の睡眠メソッドを集約した、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。本連載では同書の中心的なメソッドを紹介していきます。食事、ベッド、寝る姿勢、パジャマ――。どんな疲れも超回復し、脳のパフォーマンスを最大化する「睡眠の技術」に注目です!
眠るの最適な時間は午後10時~午前2時
睡眠に適した時間に眠りにつくと、睡眠がもたらすメリットは文字どおり何倍にも膨らむ。高名な神経科医のクリート・チャウダリーも次のように言っている。「いつ寝るかは、株式市場でいつ投資するかと同じ。どのくらい投資するかは問題ではない。いつするかが大事なのだ」
ホルモンの分泌や疲労の回復は、午後10時から午前2時のあいだに睡眠をとることによって最大限に高まると言われている。この時間帯が、いわば睡眠にとっての「投資タイム」だ。
要するに、投資タイムにいちばん身体が回復し、それ以外の時間の睡眠で得られる効果は嬉しいおまけのようなものなのだ。あまり意識されなくなったようだが、私たち人間も自然界の一部だ。地上から光が消えるというのは、私たちも灯りを消せという宇宙からの合図なのだ。
しかし、いまや自然に従わずとも、家のなかをラスベガスのネオンサインのように明るくできる時代だ。午前2時までノートパソコンと戯れることができて、それにためらうことすらない。そういう生活環境が当たり前になれば、本当は不自然だという意識をもつことは難しくなる。
人間の身体は本来、暗くなってから数時間のうちに眠るようにできている。生まれもった原理を無視するようになってしまったなら、元に戻すために何かしたほうがいい。
ホルモンが本来分泌されるべき時間に眠るようにすれば、睡眠から得られるメリットは格段に大きくなる。
午前1時に寝て午前9時に起きれば、8時間の睡眠はとれる。だが、この時間帯では、ホルモンの分泌にもっとも有利な投資タイムをほとんど逃すことになる。メラトニンも、HGH(ヒト成長ホルモン)も、投資タイムに寝ているときに分泌量が最大になる。
いつまでも若々しくいたいなら、若さを保つホルモンとも言われるHGHの分泌量が最大になるのは、投資タイムに眠っているときだと覚えておいてほしい。
なかには、8時間以上寝てもそれほど寝たように感じられない人もいる。チャウダリー医師は、「午後10時から午前2時という、身体の再生が行われるときの睡眠が慢性的に不足していると、朝目覚めても疲れが残っていると感じることがある」と述べている。
やはり、ホルモンの生成は大切なのだ。それを促す投資タイムを逃すことは、あまり賢い投資とは言えない。
午後10時に復活する元気は明日のためのエネルギー
午後10時頃になると、体内のリズムに変化が起こり、メラトニンの生成量が自然と増える。これは、身体の修復、強化、再生に使う代謝エネルギーを増やすための変化だ。その時間に抗酸化作用のあるホルモンの生成が増えれば、DNAを損傷から守ることや、脳の機能を高めることなどにもつながる。普段からこの時間に眠っている人は、何も心配はいらない。
しかし、午後10時でまだ起きていると、代謝エネルギーの増加によって「元気が回復した」ように感じることがある。
こんな経験はないだろうか? 仕事を終えた午後6時か7時はクタクタで、ベッドに入ってぐっすり眠るのが待ち遠しい。ところが10時頃になると、ぱっちりと目が冴えて何かしたくなる……。この本を読んでいるいままさに、「元気の復活」を実感しているのではないか。
きついトレーニングを経験したことのある人なら、疲れてもしばらくトレーニングに耐えるうちに、元気が復活して続けられるようになると知っている。
そのエネルギーは本来、体内で必要なメンテナンスに使われるものだ。それなのに、フェイスブックをチェックしたり、ネットフリックスでお気に入りのドラマを3話観たりすることに使ってしまう。
夜更かしをして身体の外で「復活した元気」を使おうとすれば、体内の機能は大きく損なわれる。午後10時または11時を過ぎても起きていて、復活した元気に手をつける人は、いざ寝ようとしてもなかなか寝つけない。そうなれば、朝目覚めても疲れがとれずに頭がぼんやりすることになる。
ニューヨーク大学医学部の非常勤准教授で、同大学の睡眠障害センターにかかわるジョイス・ヴァルスレーベンは、失った睡眠を週末に取り戻そうとしても遅すぎると主張する。「その時点ですでにイライラしていますし、事故につながりかねないほど反応が遅れることもあります。それに、週末に朝寝坊すれば、睡眠のリズムが崩れて日曜の晩の寝つきが悪くなり、週明けからマイナスの状態でスタートすることになります」
ヴァルスレーベンは、曜日に関係なく睡眠のリズムを一定に保つことこそがメリットだと語る。タイムマシンでもない限り、過去に遡って睡眠を犠牲にするという過ちを正すことはできないのである。