つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の一部を抜粋してお届けする。(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)
一緒に働きたい人間に目配せをしておく
組織でいい仕事をする上で大切にしていることがある。
「この人間と一緒に働きたい」と思う人間については、常日頃から目配せをしておくことだ。仕事を重ねていくと「こいつは自分にないものを持っているな」「彼と組めばいい仕事ができるな」という人間に必ず出会う。例えばそういう人間が、違う部署に異動したとしても、折に触れて飯を食ったり「最近どうしてるんだ」と声をかけたりして、信頼関係を継続しておくことが大切だ。もちろん会社の人事との兼ね合いもあるが、「いざ勝負だ」というときに、彼らと一緒に働くことができれば最高だ。
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。
実はそうした目配せ、気配りが最も求められるのが政治の世界だ。自分が一旗揚げるときのために日頃から兵を養っておく必要がある。ところが今はそれができている政治家が少ないように思う。政治家が党の代表選や総裁選に出るためには、推薦人20人を集めなくてはならない。その際にキーマンになりそうな人については、日頃から信頼関係を構築しておくべきだろう。選挙応援に入るとか、夜の会合にもこまめに顔を出し、「請求書は俺のところに回せ」と全部払ってあげる。そういう地道な積み重ねがものを言う世界なのだ。
そういう準備をずっとしてきたのが安倍晋三首相。逆に苦手なのが、石破茂氏だ。その差は大きい。安倍晋三氏が返り咲いた総裁選において、党員票でリードを許していた石破氏を議員による決戦投票で逆転したのには、それなりの理由があるのだ。私は政治評論家ではないから、どちらが政治家として優れているのかを偉そうに語るつもりはないが、永田町ほど人間臭い世界はない。そこで最終的な勝利をつかみとるためにはどんな努力が必要なのかを考えることは、究極のリーダー論にもつながるのだ。
最近、推薦人が集まらなくて総裁選や代表選への立候補を断念した、という場面をよく目にする。自分が目立つためにテレビに出る、雑誌に寄稿する。そういうときはものすごくアグレッシブなのだが、地道に信頼関係を醸成していくことには消極的。これは最近の政治家に多い傾向だ。人間関係はギブアンドテイクの積み重ねだ。相手に「自分のためにこの人はこんなことまでしてくれた」と伝わるまで尽くすのだ。そうすると「この人に言われちゃしょうがないな」「今まで世話になったし」と思ってもらえるだろう。
「損得」で人付き合いをするようで嫌な印象を持つ人もいるかもしれないが、大きな仕事は決して自分一人ではできない。組織で仕事をする以上は、本当に自分にとって助けになる、支えになるのは誰か。自分にない素晴らしい資質を持っているのは誰だろうと考えて、日頃からまわりに気を配っておくことが大切なのだ。