つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の一部を抜粋してお届けする。
(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)

作られた「虚像」よりも「人間」が見たい

 AKB48のスクープはずいぶんやった。そもそも運営側の事務所によるメディア統制は見事なものだ。秋元康さんの弟さんが中心になって、よく言うことを聞くメディアには、総選挙やじゃんけん大会の放映権やオフィシャルムックの出版権など「あめだま」を与える。逆らうメディアには「ムチ」をふるう。つまり取材協力はしない。そうなると俄然やる気になるのが週刊文春だ。次から次へとスクープを飛ばした。

新谷学(しんたに・まなぶ)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

 峯岸みなみさんが週刊文春の記事を受けて坊主頭になったときには衝撃を受けた。髪は女の命。そこまでやるのか、と驚いた。すぐにグラビアデスクに「篠山紀信さんの撮影で『原色美女図鑑』に出てもらえ」と指示した。今しか撮れない写真があるし、彼女の率直な心情もインタビューしたかったのだが、叶わなかった。ただ後に峯岸さんがどこかのバラエティ番組で「文春は意外にきちんと取材してるんですよ」とあっけらかんと言っていたのが印象的だった。

 指原莉乃さんの元カレの告白は、「小沢一郎 妻からの『離縁状』」と同じ号に掲載されていた。この号は小沢さんの記事のおかげで完売したのだが、指原さんが博多のHKT48に「左遷」されることが発表されると、さらに売れた。アマゾンで週刊文春が1冊9740円で出品されていたくらいだ。指原さんのその後の大躍進は目を見張るものがあった。彼女もテレビ番組で「文春とはウィンウィン」と発言していた。報じられた側の彼女たちのこうしたリアクションを聞くと、少しホッとした気分になる。

 あるとき、出版局の幹部に呼ばれ、こう言われた。「実は前田敦子さんの東京ドーム公演のオフィシャルムックを受注した。これは大きなビジネスだから、当面AKB関係は控えめに頼むよ」。私の答えはこうだ。「わかりました。ただし決定的なものが撮れてしまったらやりますよ」。そして間もなくして撮れたのが、前田敦子さんの「深夜の『お姫様抱っこ』」の写真だった。私の中で「ボツにする」という判断はなかったが、写真の選び方や記事の作り方には気をつけるよう注意した。それは出版部への遠慮ではない。年頃の女の子が人を好きになるのは当たり前のことだ。お酒を飲んだりハメを外したり、ときには号泣する夜だってあるはずだ。だから人間はチャーミングなわけで、着せ替え人形みたいに「恋愛禁止です」といい子ぶっているだけでは魅力的ではない。ただ彼女を傷つけるのが目的のような後味の悪い記事にはしたくなかった。

 これには後日談がある。前田敦子さんの所属事務所の偉い人と会食したことがあった。その人に私はついうっかり「前田さんも、あのスクープ以来、女優として一皮むけたんじゃないですか」と言ってしまった。「あんたに言われたくない」と怒られたのは言うまでもない。