「『人間やめますか』と言わないで」――。今年初め、薬物依存症の専門家や支援者らが、厚生労働省の記者クラブで記者会見を行った。内容は、報道各社に対して薬物報道に関するガイドラインを求めるもの。有名人が薬物使用で逮捕されるたびに繰り返される大バッシングや、間違いを含む報道、専門知識のないコメンテーターが感情的に口にする偏見、配慮のない当事者取材――等々。精神科医の松本俊彦さんは、WHOの提唱する薬物対策との隔たりを指摘する。なぜ今、問題が指摘されているのか。なぜ、「ダメ。ゼッタイ。」だけではダメなのか。薬物報道の問題点を、松本さんとダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんに聞いた。(取材・文/小川たまか、プレスラボ)
薬物乱用防止教育と報道の問題点
「薬物報道ガイドライン」を発表
「報道は影響力が大きいし、有用です。それならば現在の知見水準に合わせて、いい方向に使ってほしいのです」
国立精神・神経医療研究センターでの取材中、精神科医の松本俊彦さんは、そう語気を強めた。同センターで薬物依存研究部の部長を務める松本さんは以前から薬物乱用防止教育と報道についての問題点を指摘してきた。「『ダメ、ゼッタイ』だけではダメ」。なぜなら、一度薬物を使ったら決して立ち直れないかのようなキャンペーンを繰り返すことで、依存症患者の孤立を深め、回復を阻害するからだ。有名人が薬物を使用した際に起こるマスメディアでの大バッシングや過剰な報道は、このような「厳罰キャンペーン」の意識が下地となっていないか。
今年1月、松本さんは、薬物依存からの回復を支援するダルク女性ハウス(※)代表の上岡陽江さんや評論家の荻上チキさんらと、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を行った。(※ダルク全国薬物依存症者家族連合会 DARCはDrug、Addiction、Rehabilitation、Centerの頭文字を組み合わせた造語)
会見では17項目にわたる薬物報道ガイドラインを発表。ガイドラインの内容は、「依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること」「薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと」などだ(記事末尾に全文掲載)。