法廷に立つ女性写真はイメージです Photo:PIXTA

中国を代表する飲料メーカー「ワハハ」の創業者として知られた宗慶後氏。糟糠の妻と一人娘を大事にし、質素な生活で「妻一人・娘一人・布靴一足」と称えられた愛国企業家に、死後「隠し子」がいたことが判明した。約3000億円(21億ドル)という遺産の行方は?清廉なイメージで知られた創業者の知られざる素顔と、巨大企業を巡る骨肉の争いに、大きな注目が集まっている。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

中国大手飲料メーカー「ワハハ」、創業者の娘が訴えられた

 7月中旬、香港の高等法院で開始された裁判の公判が、中国全土に大きな衝撃を与えた。

 訴えられたのは、宗馥莉(ケリー・ゾン、以下「馥莉」)氏と彼女名義の会社、ジエンハオ・ベンチャーである。馥莉氏は、杭州を拠点とする中国有数の飲料品メーカー「娃哈哈 Wahaha」(以下、ワハハ)創業者の一人娘だ。

 ワハハの創業者、宗慶後氏(以下、「宗氏」)は生前、何度か中国のトップ富豪になりながらも私生活は質素で慎ましく、「自分のために使うお金は年間5万元(約100万円)」と言われていた。また糟糠の妻とその娘である馥莉氏との3人の家庭を大事にする姿は、「妻一人・娘一人・布靴一足」などと形容されていた。

 宗氏は昨年2月にがんで亡くなり、その事業を娘の馥莉氏が継いだばかりである。すでに20年以上父のもとで「帝王学」を学んできた馥莉氏の後継を、世間も当然のことと受け止めていた。

 この裁判が人々の度肝を抜いたのは、原告とその訴えの内容だった。清廉なイメージで、中国では知らない者がいない「妻一人・娘一人・布靴一足」の宗氏に、跡継ぎの娘のほかに子どもが3人いたというのだ。