今年3月7日に閣議決定された刑法の性犯罪規定部分に対する改正案が、今国会で審議される予定だ。しかし、それを「やっと」と感じている人たちがいる――。
現行の刑法は、いまから110年も前の明治40(1907)年に作られたものだ。女性に参政権がない時代、その声が反映されることはなかった。性暴力被害は極力隠され、実態が表に出てくることがほとんどなかった時代でもある。
強姦(ごうかん)に性交類似行為も含め名称を「強制性交等罪」に変更すること、その対象を男性にも広げること、被害者の告訴があってはじめて検察が起訴をする「親告罪」を削除すること、法定刑の引き上げ(厳罰化)など、大幅な改正が見込まれている。
「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表を務める山本潤さんは、これを大きな一歩だと考えている。山本さん自身、実父から7年間に及ぶ性暴力を受けてきた。被害によって心身にもたらされた大きな混乱とそこからの回復の道のりを、自著『13歳、「私」をなくした私~性暴力と生きることのリアル~』(朝日新聞出版)で赤裸々に告白したことでも話題となった。そんな彼女に、被害当事者から見た現行刑法の問題点、そして今回の改正案で重要と思われるポイントをうかがった。まずは同会を起ち上げた経緯からお話いただく。
山本潤さん(以下、山本)「刑法の問題は以前から感じていましたが、自分ではどうにもできないものだと思っていました。刑法を読んでみてもむずかしいし、法制審議会や刑法検討会の記録を見ても何を書いてあるのすらよくわからなくて……。ですが、2015年の7月に“性暴力被害の実態に即した刑法強姦罪の見直しを”という院内集会に参加して法務省職員による報告を聞いたとき、性暴力の実態を何もわかっていない人たちが刑法改正の議論に携わっている現実を目の当たりにし、強い危機感を覚えたんです。被害者の声を届けなければと思い当事者の会を起ち上げ、その年の10月に要望書を提出しました」