現場の従業員一人一人が、会社の会計データを把握していなくても、日々の営業には何ら支障はありません。しかし、だからと言って、「知らせる必要はない」とは思いません。もちろん、店長とスタッフで情報のレベルを分ける必要はあるでしょうが、基本的には、詳しい数字を逐一伝えたほうが、従業員の意識や働き方も変わっていくと思うのです。
従来型の店舗運営では、現場の人たちのパフォーマンスを計る指標は客数と売上ぐらいしかありませんでした。この2つはたしかに目に見えてわかりやすいので、たとえば月間目標に設定して、従業員のモチベーションアップにつなげるのに最適な数字でした。ところが、いざ月次の決算を出してみると、「売上はよかったけれども、原価をかけすぎていて、利益は出ていない」なんてことも起こりえます。現場の従業員たちにしてみれば、「今月はあんなに頑張ったのに……」と落ち込んだ気分になったり、せっかくのやる気が削がれてしまいます。
だからこそ、店舗のマネジメントに関わる人間は、客数や売上だけではなく、ほかのさまざまな側面から従業員の仕事を評価できる数字、つまりトータルな会計データを持ち、そのつど現場にフィードバックするべきなのです。そうすれば、店舗運営や従業員のモチベーション維持は、これまで以上にスムーズにできるようになるはずです。
それは、私が『豚組』を経営していたときに常に心がけていたことでもあります。しゃぶしゃぶという業態の性格上、夏はどうしても売上は落ちます。そんなとき、「どうせ夏はダメだから……」となるのではなく、「弱い季節なら弱い季節なりに、どうやって利益を出していくか、みんなで考えよう」と従業員に投げかけることで、彼らのやる気を鼓舞していたのです。
会計データの“見える化”は、経営者や店長クラスにとっては高度な経営判断の材料に、現場の従業員にとっては意識改革を起こすためのきっかけに、それぞれ役に立ちます。それらはクラウド会計が店舗にもたらしてくれる高度化の恩恵にほかなりません。
対応が難しい、顧問税理士との関係
会計ソフトのクラウド化を進めるにあたって、もうひとつ重要なポイントがあります。「顧問税理士との関係」です。前田さんも、これから取り組まなければならない2つ目の課題として、顧問税理士との会計データの共有方法を挙げてくれました。
KAGAYA&Melissaグループでは取材時点で、2名の税理士に会計を見てもらっています。2名ともこれまでパッケージ型の会計ソフト(一人は「弥生会計」、もう一人は「JDL IBEX」)を使用していたため、同グループが「MFクラウド会計」を導入するのと同じタイミングで、パッケージ型ソフトからの移行をお願いしたそうです。
弥生会計の税理士さんのほうは、すぐに「MFクラウド会計」の導入を決めてくれました。弥生会計からの乗り換え作業も徐々に進めてくれて、もう少しで「MFクラウド会計」のみですべての会計処理を完結できる状態になるそうです。なお、乗り換え期間中は、「MFクラウド会計」が自動取得・自動仕訳した会計データを前田さんのほうで弥生会計用に変換して、税理士さんに送付していました。
一方、JDLの税理士さんは、一応は資料を取り寄せて検討をしてくれたのですが、年配の方で長年のやり方を変えることに抵抗感があるのか、「うちでは無理です」という返答だったそうです。そのため、今後はクラウド会計で取得・仕訳したデータを毎回JDL用に変換して税理士さんに送付して、やり取りしていこうと考えています。
前田さんにとっては、税理士さんにも「MFクラウド会計」を使ってもらって、クラウド上ですべてのデータを共有できるようにすることが理想的な環境です。しかし、前田さんの思惑だけでは、その理想を実現できないところが、まさに会計ソフトの新規導入の難しさだと思います。
前田 「会計は税理士さんの存在が不可欠な業務であり、自分の会社だけでは完結しません。自分たちの側で導入を決めても、移行には税理士さん側の都合もあるため、すぐにとは行かない場合もあります。さらに、『移行できない』と言われたら、クラウド会計を通じてのデータ共有は諦めるしかなく、データの変換をしてやり取りするなど余計な手間がかかることになります」