政治のリーダーシップは当てにならない。ならば自分たちで立ち上がろう――。ブッシュ政権下、人材流出と産業衰退に喘ぐルイジアナ州ニューオーリンズで始まった“草の根”の起業家支援プロジェクトは、ハリケーン「カトリーナ」を経て、その活動を一気に拡大させた。大惨禍から6年、ニューオーリンズ は今やアメリカ南部有数のベンチャー集積地に変身を遂げつつある。その中核的役割を担ったアイディア・ビレッジのティム・ウィリアムソンCEOに、災害復興期のベンチャー支援のあり方と意義を聞いた。この事例を日本人が生かさない手はない。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
――アイディア・ビレッジ設立の経緯を教えてほしい。
ニューオーリンズを拠点とする起業家支援NPO、アイディア・ビレッジの共同創設者兼CEO(最高経営責任者)。自身もこれまでに4つの企業を立ち上げた起業家である。ニューオーリンズのチューレイン大学卒。ルイジアナ州のスモール・ビジネスおよび起業委員会のメンバーも務める。
アイディア・ビレッジは、私が共同創設者となって、ハリケーンカトリーナの5年前の2000年に立ち上げたNPO(非営利組織)だ。当時、ルイジアナ州では人材の流出が激しく、1985年から2000年のあいだに若年層(22~35歳)の人口は4万1000人も減少していた。その流れを、断ち切りたかった。そこで、旺盛な起業家精神を持つユニークな個人を探し出してサポートし、彼ら彼女らの生み出すビジネスでこの地に経済的、社会的な変化を起こせれば、雇用を促進し新世代の富が生まれる土台を築けると思った。
当初の活動資金は地元のビジネス関係者や財団から募った50万ドルのみだったが、その後ニューオーリンズ市から同額の補助金を得て、さらに地元のチューレイン大学、ニューオーリンズ大学も戦略パートナーとして加わってくれた。ニューオーリンズ再生を掲げたわれわれの夢に地元の産学官関係者が手を差し伸べてくれたわけだ。
――具体的にはベンチャーに対して、どのようなサポートをするのか。
まず支援対象は、売上げ100万ドル以下、従業員数10人以下の、ニューオーリンズを拠点に活動している新興企業に絞っている。もちろん、資金面での援助もする。ただ、われわれが重視しているのは、むしろメンターとなってコンサルティングや人的ネットワークを提供することだ。
具体的には、必要に応じて弁護士や会計士、コンサルタントらにつなぎ、ビジネスが立ち上がって、それなりの収入や投資資金を得るところまで助ける。われわれはNPOなので、自分たちの儲けは考えない。ニューオーリンズの新興企業に必要とされている公平なブローカーの役割を果たせていると思う。
――設立5年後にハリケーンカトリーナが米南東部を襲い、ニューオーリンズも壊滅的な被害を受けた。そこからの活動はどう変わったのか。
先に数字を述べると、過去5年間に約2690社がアイディア・ビレッジにコンタクトをとってきた。われわれは、そのうちの1101社に対して直接サポートを行った。延べ4万2554時間に及ぶコンサルティングを提供し、270万ドルの資金を彼らのために調達した。また、世界各地の1746人の専門家がベンチャー支援に協力してくれた。
つまり、われわれの活動は一気に拡大したということだ。カトリーナ後、ニューオーリンズ市民は皆、ある種の起業家になったと言っても過言ではない。自分のいる場所が職場であろうが、家庭であろうが、コミュニティであろうが大学であろうが、市民は皆「振り出しに戻って、ゼロから始める」という挑戦に身を投じざるを得ない状況に追い込まれたからだ。