ゴールデンウイークが過ぎ、本州では初夏の気配さえしはじめていた5月19日、北海道北部、日本最北端の町・稚内からフェリーで2時間弱の日本海に浮かぶ島、利尻島では、まだ桜のつぼみがようやく膨らみ始めたばかり、朝夕は肌寒さも残る日が続いていた。

 北海道内で店舗展開を拡大するサッポロドラッグストアー(北海道札幌市、富山睦浩社長)は、この日、道内133店舗目、離島への出店としては初となる、サッポロドラッグストアー利尻店(小松健司店長、売場面積865m平方メートル)をオープンさせた。

 通常、最低でも1万人前後の商圏人口を設定し出店する同社だが、今回出店した利尻島の全人口はおよそ5500人/2500世帯。通常、設定する商圏の実に半分だ。さらに高齢化の進行、若年層の都市への流出が続いている。いま、このように隔離された小商圏へ出店するドラッグストア(DgS)が各地にみられる。一見、これまでの出店セオリーとは異なる展開にも映るこれらの動きには、どのような背景があるのだろうか。

柔軟に商圏に対応し出店する

 サッポロドラッグストアーが店舗展開する北海道では、道内最大手のツルハ(北海道札幌市、鶴羽樹社長)が道内のほぼ全域におよそ、300店舗を展開する。サッポロドラッグストアーは店舗数で第2位。必然的に新たに進出する商圏では競合も多くなり、道内550万人の限られたパイ争奪は年々厳しくなっている状況だ。

 さらに道内全人口のおよそ半分が札幌大都市圏に住む一方で、道東や道北をはじめとする、いわゆる“地方”は、人口密集度が極端に低いうえに過疎化が顕著だ。店舗数で後塵を拝するなかで、サッポロドラッグストアーが実践する戦略は、商圏規模に合わせた利便性の高い、個性ある店づくりだ。店舗を商圏に合わせ柔軟に出店できるよう規模別出店パターンを確立し、品揃えを整えながら徐々になじみ込むよう店づくりを進めている。

 利尻島への出店は、北海道の事情に合わせた同社の柔軟な出店パターンでも最も狭小な5500人の隔離商圏への出店となる。年商目標3億3000万円は、1世帯当たり年間で13万円強、月1万1000円分を購入してもらうことで達成が可能となる。さらに、販売価格を本土並みに抑えるため、離島特有の高い輸送コストに関しては、便の共有化・混載化などを進めている。また、冬場のフェリー欠航などを見据え、在庫を備蓄するため、売場面積で利尻店の2倍の面積を持つ、屯田店や千歳店並みのバックヤードおよび冷蔵庫を完備する。

「医薬品、化粧品、雑貨、食品を充実させた島内随一の店舗」(サッポロドラッグストアー・富山社長)として、島に定着させていく予定だ。島民もまた、買物の楽しさ、選ぶ楽しさを、これまで十分に味わうことができなかった生活環境だけに喜びも大きく、“本土並みの品揃えと価格”を実現する本格的な店舗のオープンに、その期待は並々ならぬものがある。

進む離島へのドラッグストア出店

 サッポロドラッグストアーの離島への出店だけではなく、各地の離島へのDgS出店が進んでいる。九州や沖縄で店舗展開するナチュラル(ドラッグストアモリ)やドラッグイレブン、マツモトキヨシグループのミドリ薬品など各社は、石垣島、宮古島(以上、沖縄県)、種子島、屋久島(以上、鹿児島県)、壱岐島、対馬島(以上、長崎県)などへ、ツルハグループのウェルネス湖北は隠岐・島後(島根県)へ出店している。島の規模や人口、競合状況にもよるが、いずれも輸送コストでの本土とのハンディを持つ一方で、競合がない場合には売上高も本土並みか、それ以上を維持し、「2店舗出店すれば経費負担が格段に下がる」(ナチュラル・森社長)という。

 薬事法改正による医薬品のインターネット販売への対応などが話題に上るが、リアル店舗の離島への進出で、買物弱者の利便性が格段に高まるだけではなく、実際の商品を手に取りながら体験する、選ぶ楽しさの提供は何物にも代えがたい。

 成熟社会に突入した日本で、ビジネスとともに離島での社会インフラとしての期待も背負う、まさに挑戦の場となっているのだ。


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