習近平国家主席習近平国家主席 Photo:中国通信/JIJI

中国では、古代の皇帝や歴史上の出来事が、現代政治への批判や風刺として読まれることがある。2023年、明朝最後の皇帝・崇禎帝を扱った学術書が、再刊直後に市場から姿を消した。問題視されたのは、380年前の「勤勉な亡国の君主」という人物像が、現在の中国指導者を連想させかねなかったからだ。なぜ中国当局は、過去の皇帝を論じた本にまで神経をとがらせたのか。※本稿は、紀実作家の安田峰俊『中国ぎらいのための中国史』(PHP出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「勤勉な亡国の皇帝」の本は
なぜ販売NGになったのか

 2023年10月、中国である書籍が事実上の発禁処分になり、ネット上で情報を検索できなくなった。

 不思議なのは、本の内容に反体制的な要素がほとんどなかったことだ。同書は『崇禎』というタイトルで、明朝の最後の皇帝である崇禎帝を主題に、王朝の滅亡過程を考察したアカデミックな著作だった。著者は同年の5月に死去した中央民族大学元教授の陳梧桐。明朝史研究の権威として知られた研究者である。

 そもそも、『崇禎』は2016年に『崇禎往事』という別のタイトルで刊行された書籍の再販だった。オリジナル版の本は、現在も世間で問題なく流通している。

 では、どんな部分が問題視されたのか。それはおそらく、再販版の体裁である。

 同書の副題を含めたタイトルは『崇禎 勤政的亡国君』(崇禎帝・勤勉な亡国の君主)といい、さらに書籍の帯には「失策の連続で泥沼にはまる 政務に励むほど亡国に近づく」という宣伝文句が付けられていた。表紙には首吊りの縄が描かれ、人目を引くデザインである。

 崇禎帝は政治改革に熱心で、傾いていた明朝の屋台骨を立て直そうと必死で努力した皇帝だ。ただ、彼は他人を信用できない悪癖があり、重臣を数多く誅殺。財政健全化のための増税が民の反発を買うなど、政策がすべて裏目に出て、やがて李自成の反乱軍に北京を包囲される。部下がすべて逃げ去ったなか、彼は陥落寸前の紫禁城で自身の皇女に手をかけ、裏山で首を吊って自滅に近い最期を迎えた――。