台湾・鴻海精密工業の傘下でシャープは、グループの総力を挙げて劇的に業績を改善させている。2017年度は4年ぶりの最終黒字化を狙って、売り上げ拡大にかじを切った。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)

「有言実行で必ずV字回復する」。鴻海精密工業による買収完了とともに昨夏に就任したシャープの戴正呉社長は、復活に自信を見せている。その根拠は、初年度の業績を劇的に改善させたことにある。

 2016年度の業績は、4100億円を超える売り上げ減少の中で、営業損益の改善額は2243億円に上った。最終赤字を248億円まで圧縮し、今期は4年ぶりの最終黒字化を目指す(図(1))。

 この実績の要因は、コスト削減に尽きる。16年度は、社員の退職が相次いだことでグループ人員が年間で1600人減少し、設備投資の削減で減価償却費が減り、研究開発費も圧縮された。人員の自然減、減価償却費・研究開発費の圧縮を合わせただけで、500億円近くの費用減となった。

 特に、2243億円の営業損益の改善額のうち、ディスプレイ(液晶・テレビ)部門の改善は1807億円(図(2))で、見逃せないのが鴻海効果だ。

 スマートフォン用の中小型液晶が振るわなかったにもかかわらず、この部門が急回復したのは、テレビと大型液晶が黒字化したためだが、ここで大型液晶工場の堺ディスプレイプロダクト(SDP)が大きな役割を果たしたとみられる。

 SDPは12年に鴻海が資本参加したことでシャープの持分法適用会社になった経緯がある。以降、シャープは生産能力の半分のパネルを引き取る義務を負い、製造原価に利益を上乗せした「コストオン価格」での調達を強いられた。

 結果、シャープの液晶・テレビ事業を圧迫した過去があるが、この引き取り義務が鴻海グループ入りで解消されたのだ。SDPからシャープを経由していた韓国サムスン電子へのパネル供給も停止。これらにより、シャープはSDPから自社のテレビに必要なパネルだけを調達できる構造に転換した。調達価格も市場に連動して引き下がったとみられ、液晶・テレビ事業の採算改善に寄与したようだ。

 一方で、シャープの買い取り義務に支えられて黒字を維持してきたSDPは、4年ぶりに赤字転落し、16年は約600億円の損失を計上した。シャープはSDPの出資比率の37.6%に応じて16年度に186億円の持分法投資損失を計上したが、昨年末までに鴻海グループはSDPを子会社化してシャープの出資比率を約20%まで引き下げたことで、その損失がシャープの業績に与える影響を減らしている。